6億円を稼ぐ=シリーズ東京ヴェルディ(3) クラブを変えるマーケティング戦略
「今が底だから」という言葉をうのみに
東京V営業チームの一員としてチームを支える山田氏 【海江田哲朗】
これを後押しするのはサポーターだ。直接的に手を貸す人がいれば、沿道で待ち構えて励ます人、見晴らしの良い高台からひたすら祈りをささげる人がいる。ある人は商品の品質にほれ込み、またある人は楽しげな雰囲気に誘われ、やがて同好の士となる。
大八車の車輪を回し続けるためには、人件費や車体のメンテナンスなど何かと費用がかかる。そこで、資金を調達するのが営業スタッフの仕事だ。スポンサーの協賛を募り、商品の魅力をアピールし、創意工夫を凝らしてサッカーをお金に変える。彼らの手腕なくして、山あり谷ありの道のりを走り続けることは不可能である。
山田敏之が東京ヴェルディ(以下、東京V)の営業チームに加わったのは、2007年8月のことだった。たまたま知人が東京Vのスタッフと交流があり、営業の人材を探していると聞いた。
「ここ2年はJ2で状況は厳しいけれど、これ以下はない。大丈夫、間違いなく今が底だから」
山田はこの言葉をうのみにした。その先にさらなる底が口を開けて待ち受けていようとは思いもしなかった。
ベレーザと地元大学を結びつける
東京Vに入社後、山田は営業畑一筋に歩んできた。営業・ホームタウン推進部に属し、パートナー営業チームの副部長を務めている。スポンサー企業との交渉や新規開拓が主な業務だ。
「飯田産業さん、MJSさん、ゼビオさんをはじめ、現在の苦しい時期を支えてくださっているスポンサー企業の方々には感謝しています。通常、3年もJ2にいたら広告を引き上げられてもおかしくない。ともすれば減額という話になるところを、継続的にサポートしてくださっています」
今シーズン、スポンサー料収入はノルマの5億円を早々にクリアし、目標を上方修正している。
「昨年、ある程度のベースができていたので、5億は最低限のラインでした。現状、5億3000万あたりは見えているので、ここからどう上積みできるか。今後、チームの成績やロンドンオリンピックでの女子サッカーの結果によっては、数千万動くこともありえる。最終的には5億5000万から6000万に到達できたら上出来と考えています」
地方のクラブにおいて、地場産業が積極的に支援するのは理解できる。一方、東京のクラブを支えることについて、スポンサー企業はどこに価値を見いだしているのか。
「クラブの総合力を評価していただいていますね。将来有望な若手が多くいること。タレントを輩出できる育成組織があること。30年間、女子サッカーの強化と普及に力を注いできたこと。日テレ・ベレーザ(以下、ベレーザ)はもともと有していた価値に世間の価値が追いつき、正当な評価を受けられるようになったというのがわたしの考えです」
ベレーザの胸スポンサーに、地元稲城市の駒沢女子大学を結びつけたのは山田の仕事だ。2009年シーズンをもってニチレイが胸スポンサーから撤退し、存続が危ぶまれていたところ、行政への根回しを行い、実現にこぎ着けた。そして、なでしこ人気の追い風を受け、今シーズンのベレーザは合計約6500万円の広告料を背負う。なでしこリーグの試合放送の少なさ、入場者数などを考慮すると、破格の契約といっていい。