6億円を稼ぐ=シリーズ東京ヴェルディ(3) クラブを変えるマーケティング戦略

海江田哲朗

気にするのは勝ち負けより観客の入り

開幕戦となった松本山雅戦には1万人を超える観衆を集めた 【Getty Images】

 さておき、東京Vはホームゲームで3連敗中。スポンサー企業の方々が多く訪れる手前、気まずくはないのだろうか。

「もちろんホームで勝つのがいいに決まっていますが、結局はトータルの成績が重要です。チームが勝てない時こそ営業が頑張らなければならない。待っていても売れないですから、押し売りをしてでも(笑)。気にするのは勝ち負けより観客の入りですね。そちらの少なさのほうが申し訳ない気持ちになります。現在の入場者数(1試合平均5963人)は、いただいている広告料に見合うものではありません。先ほど述べた総合力の面でカバーしている状態です」

 東京Vは特定の試合にターゲットを絞り、エネルギーを集中投入する戦略を採っている。開幕戦の松本山雅FC戦は1万2432人、第2節のヴァンフォーレ甲府戦は7020人を集め、まずまずの成果を挙げた。舞台がJ1で高コスト体質だった以前は、味の素スタジアムに2万人入れてトントンだったが、収支構造を見直した現在は7000人で利益を出せる。

「これぞという試合に狙いを定め、集客作戦を仕掛けるのはスポーツビジネスの定石。盛り上がる試合を作り、リピーターを増やしていく。地道な努力は大切として、すべての試合をまんべんなく増やそうとするのは、限られたマンパワーを有効に活用できず得策とはいえません。特にJ2では難しい」

 当面は6月17日のジェフユナイテッド千葉戦、10月7日の東京クラシック第2弾(FC町田ゼルビア戦)に照準を合わせている。あとは終盤にJ1昇格の懸かった試合がいくつあるか。その都度、アイデアを練り、スタジアムへの来場を呼び掛けていくことになる。

「スポンサー企業の方々に恩返ししたい」

 川勝良一監督が就任3年目を迎え、プロジェクトの総決算とされる今シーズン、J1昇格は単なる目標ではなく進退を賭した公約である。山田は言う。

「そこに懸かっているものは大きいです。万が一、結果が出ない場合は、すべてが尻すぼみになりかねない。はたして現在のスポンサー料収入を確保できるかどうか……。本来、営業はチームの成績とは別に収入を安定させなければいけないのですが、クラブの性質上、徐々に上向いていくというより、きっかけを得てジャンプアップするタイプだととらえていますので。やせ我慢をしてでも一気に跳び上がらなければ、コストを支えきれない」

 2009年から2010年にかけ、東京Vは経営危機に揺れた。どうにかクラブ消滅のピンチは回避したものの、予算の大幅な縮小を余儀なくされ、チームの戦力は著しくダウンした。それは営業チームにおいても同じである。クラブに愛着を感じつつも、生活のために去る決断を下した人がいた。

「わたしの場合は年齢も若く独り身ですから、給料が安かろうと休みが少なかろうと、それほど重要ではありませんでした。ヴェルディから離れなかったのは、このクラブには可能性があると思ったから。蓄えた力がドカンと爆発し、ジャンプアップする可能性が。例えば、地方のJ2クラブで求められるような、何十年も費やして少しずつ成果が表れる仕事なら続けようとは思わなかったでしょう。どちらが良い悪いではなく、自分がどんな仕事をしたいのか、その種の志向の問題です」

 スポンサー営業の専任スタッフは山田を含めて3名。加えて、必要に応じてアシストする兼任スタッフが3名いる。同規模のクラブとの比較では、人員を割いているほうだという。サッカーと同様、ここでもチームワークが欠かせない。

「目的意識のはっきりした人が残っているので、チームワークを高めるためのマネジメントを意識しなくても、自走できる人ばかりです。みんな楽しみを見つけて、よく働きますよ。『よし、今日はクラブハウスに泊まって仕事しようぜ』という感じで(笑)。そういったノリや仲間に目を配る余裕はようやく戻ってきたかな。わたし自身、先輩方に支えられ仕事を覚えてきたのに、存続問題で不安定な時期は人を育てる余裕がまるでなかったです。また、個人に裁量が与えられているので、やりたいことが即実行に移せる。慣習に縛られることの多い歴史のあるクラブで、ヴェルディほど自由にやらせてもらえるところはないんじゃないですか。スポンサー企業の方々には『復活したヴェルディを支えたとなれば、リターンは大きいですよ』とお約束しているので、きっちり恩返しをしたいと思います」

 第16節終了時点で、首位の京都サンガF.C.とは勝ち点6差の6位。これ以上、上位から引き離されると今後の戦いが苦しくなる。来たる6月2日の第17節の大分トリニータ戦でホーム連敗を止め、勢いを取り戻したい。

<了>

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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