ウェバーvs.ベッテルの“目に見えない攻防戦”=F1=可夢偉は不運なアクシデントでリタイア

吉田知弘

ベッテルの誤算

ベッテルらの追い上げをかわし、今季初優勝を飾ったウェバー。“抜けないモナコ”の定説通り、コースを味方につけた 【Getty Images】

 しかし、ベッテルが描いていた逆転のシナリオは、レース序盤から狂い出す。スタート直後のアクシデントでセーフティーカーが出動し、4周目からレースが本格的に始まっていく。トップのウェバーが快調に逃げる一方で、6位まで浮上したベッテルは、4位でペースが上がらないアロンソを先頭とした集団に埋もれてしまう。アロンソの駆るフェラーリマシンはタイヤに優しい反面、タイヤに熱を入れて性能を100パーセント引き出すまでに時間がかかる。そのため今回はほかのドライバーよりも、タイヤの調子が良くなってタイムが上がるタイミングが少し遅かった。これがベッテルにとっては誤算となったのだ。

 これにより、できる限りウェバーに近づいていたかったベッテルだが、12.732秒の差をつけられてしまう。しかし、29周目のウェバーに続きアロンソも30周目にピットイン。ここで暫定トップに立った現王者は、作戦を遂行するため一気にペースを上げる。しかし序盤での誤算が響き、ウェバーに対して16.615秒のリードを築いた46周目にピットイン。結局、チームメートの3.5秒後方、さらにアロンソのすぐ後ろでコースに復帰すると、またアロンソとのバトルを強いられることとなった。

 これで再びトップに返り咲いたウェバー。レース終盤はタイヤの消耗と降雨の影響でペースダウンし、2位ニコ・ロズベルグ(メルセデスAMG)以下に追いつかれてしまうが、“抜けないモナコ”を味方につけて最後までトップを死守した。モナコ通算2勝目となる今季初優勝。これで2012シーズンは6戦を終えて6人のウィナーが誕生する、F1史上でも例を見ない大混戦のシーズンとなった。

 こうして振り返ってみると、「モナコではポールポジションからのスタートが絶対有利」という常識は覆ることはなかったが、現王者ベッテルは「後方からでもレース戦略で逆転して、抜けないモナコで勝つ」という新たな可能性を見せてくれたレースだったと思う。

可夢偉、アクシデントに巻き込まれ悔しいリタイア

 前回スペインGPで5位入賞し、勢いに乗ってきた小林可夢偉(ザウバー)は11番手からスタートしたが、1コーナー手前で発生したミハエル・シューマッハ(メルセデスAMG)とロメ・グロジャン(ロータス)の接触がきっかけで1コーナーは大混乱。可夢偉もこのアクシデントに巻き込まれてサスペンションが破損し、不運なリタイアとなってしまった。

 ザウバーチームが配信する公式インタビュー動画で可夢偉は「運が悪くアクシデントを避け切れない場所にいて、巻き込まれてしまいました。スタートが良くてポイントも狙えただけに悔しい」とコメント。しかし、今回は不運なアクシデントだったと言うことで、本人もすでに次戦を見据えている様子だった。

 次回のカナダGPは昨年大活躍していて、途中から降り出した雨を味方につけ一時2位を快走しており、可夢偉本人も「2011年のベストレースのひとつ」と言っている。昨年と同じように上位に食い込む可夢偉の走りに期待したい。

<了>

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著者プロフィール

1984年生まれ。幼少の頃から父の影響でF1に興味を持ち、モータースポーツの魅力を1人でも多くの人に伝えるべく、大学卒業後から本格的に取材・執筆を開始。現在では国内のSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に年間20戦以上を現地で取材し、主にWebメディアにニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載。日本モータースポーツ記者会会員

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