天才・遠藤保仁が示す日本サッカーの未来=風間八宏が説く日本流ゲームメーカーの存在意義

なぜ遠藤はパフォーマンスが安定しているのか?

4月24日に川崎フロンターレの監督に就任した風間八宏氏。独自のサッカー理論と指導法には定評がある 【『フットボールサミット』編集部】

――次に「メンタルを扱う技術」を聞かせてください。これはプレッシャーのかかる試合でも、技術の正確さに影響しないということですか?

 まず理解してほしいのは、技術っていうのは1つでは決して成立しないということ。日本の場合、メンタルだけを取り上げると「頑張れ」って精神論になっちゃう。誰もが必死にやるのは当たり前だし、いくら心で頑張ろうとしても、持っている技術がブレてしまったら意味がないんですよ。すべての技術の相関関係が正三角形じゃなくちゃいけない。そういうことを踏まえて「メンタルを扱う技術」について言えば、遠藤の場合、たとえボールが止まらない日でも、自分をコントロールできている。ボールタッチというのは繊細で、どうしても「今日はトラップがうまくいかない」という日がある。実際に遠藤もそういう日があると思うんですが、それでもパフォーマンスが変わらないですよね。

――あの選手はボールが止まっていないな、っていうのは外から見て分かるものなんですか?

 すぐにわかる。当然、本人も分かっている。けれど、遠藤はすごくいいときと、すごく悪いときの幅が少ない。その幅がすごく狭い。自分の頭の中にプレーの基本形が描けていて、そこに戻せば大丈夫っていうイメージがあるんだと思います。

――たとえばバックパスでリズムをつかむ、といったプレーでしょうか

 それもあるとは思うけれど、遠藤は守備をすごく献身的にやりますよね。ボールを持てなくても、奪えばいいという発想。そういう対処法を含めて「心を扱う技術」。まあこれが経験っていうこと。何試合やったということではなくて、自分の中で何度も問答していて、それが経験になっている。「こういう状況に陥ったときは、こういうふうにすれば元に戻るんだ」とか。

――技術がブレてしまうんじゃないか、という不安を克服していると

 ブレたら、本当の技術じゃないですよね。だって世界の本当のすごい選手っていうのは、いつも活躍しているでしょう? 昔みたいに波がある選手は少なくなった。テベス(マンチェスター・シティー)みたいな選手もまだいるけれど、技術が本当にある選手っていうのはそんなにブレない。それは遠藤のキモだと思います。

日本のゲームメーカーのモデルのひとつになる

――3つ目の「敵を扱う技術」ですが、それはどういうことですか?

 簡単に言えば、相手を見てプレーの選択を変えているということ。相手がこのくらいの力だから、ここまでのプレーにしておいて全体のバランスを取ろうとか、今日はやばいからここにいようとか。相手の左サイドの方が弱かったら、そこを突いていくとか。自分自身を整理できているから、敵を見ることができる。まあ、昔はゲームメーカーといったら、それができて当たり前だったんですけどね。

――相手の嫌なことをできると。ゲームメーカーは多少、意地悪なところがなきゃできないのかもしれませんね(笑)

 自分たちのやりたいことをやるのもサッカー選手だけど、相手が嫌なことをやるのもサッカー選手なんですよね。つまり自分たちがやりたいことをやれなくても、相手が嫌なことをやれればうまくいくっていうこと。サッカーの根本っていうのはそこにあって、それを含めて全体が見えるかどうか。ストライカーと比べたら、ゲームを作る人間っていうのは味方も敵も見れないといけない。そういう意味では、遠藤はピッチを俯瞰で見てるんじゃないでしょうか。いつも山のてっぺんから見ているような感じで。

――確かに遠藤に以前インタビューしたとき、「ピッチを俯瞰で見るようにしている」と言っていたことがありました

 日本サッカーにおいてすごくいいことだと思うのは、遠藤の実力が日本のサッカーファンからきちんと評価されているということ。ゲームメークができる中盤の底の選手というのは、日本で好かれるタイプなのだと思う。ヨーロッパだと、中盤の底のポジションというのは、すごく足の速い選手とか、ものすごく動く選手とかが評価されやすい。もしかしたら遠藤の良さは、ヨーロッパでは気づかれづらいかもしれない。でも、狭い中であれだけ正確に技術を発揮できて、冷静に相手を見て、的確に相手の嫌なことができる選手がいたら、間違いなく相手は怖い。そういうタイプが、日本らしいゲームメーカーだと思うんです。あのポジションなら別に足が速い必要はない。だから、もしかしたら遠藤は日本のゲームメーカーのモデルのひとつになるんじゃないかと思います。

――遠藤が日本サッカーの未来像を提示していると

 簡単に言えば、ゲームを作るポジションというのは、チームにおける“社長”。スペインのシャビは別格だとしても、ドイツのシュバインシュタイガー(バイエルン)やオランダのファン・ボメル(ミラン)と比べたら、遠藤の方がうまいですよね。走れる、速いっていう選手はいても、目のいい選手っていうのは世界でもなかなかいない。正確な技術と目があれば、真ん中のポジションをできるっていうことを、遠藤が証明していると思います。たとえば、レアル・マドリーとバルセロナに遠藤は入れないかもしれないけれど、彼らが遠藤のいるチームと対戦したら、最も嫌な選手は遠藤になるはずです。つい日本はなんでもかんでも「海外がいい」ってなりがちだけれど、ああいう選手の良さにもっと注目すると、日本だけにしかいない真ん中の選手っていう像が出てくると思いますね。

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