データの変化に見る2012年版イチローの打撃スタイル

木本大志

ゴロが減り、フライ・ライナーが増えた打球

データに変化が見られることは何を意味するのか? 今後のイチローから目が離せない 【Getty Images】

 やはり「fangraphs.com」のデータ(4月22日現在)を参考にすれば、昨年は59.9%だったゴロの確率が39.7%に下がり、逆にフライになる確率は昨季の21.1%から31.7%に上がっている。同サイトには2001年の数字が記されていないが、2002年以降で見ればいずれも突出した数字で、これまでは、ゴロになる確率が50%を切ったこともなければ、フライの確率が30%を上回ったこともなかった。

 打球の傾向は、その2つにとどまらず、ライナーの確率も28.6%で、昨年の19.1%から大幅なアップ。逆に内野フライの確率は、昨季の14.2%から30.0%に大きく上がっている。

 これらが意味するものは何か?

 ドジャースのドン・マッティングリー監督が以前、ヤンキースの打撃コーチだったとき、イチローの打撃練習を見ながらこんな話してくれたことを思い出した。

「(左打者が)長打を狙いにいったときというのは、ポイントが気持ち前にくるから、わずかなズレで、三塁方向への内野フライになることが多い」

 イチローのファールフライを含めた内野フライの数を改めて調べてみると、今季は8本で、サード、ショートへのフライは6本だった。サードへのファールフライはそのうち3本。

 チャンブリス打撃コーチは、「フォームからは強い打球を飛ばそうという意識が感じられる」と話しており、その結果がゴロの減少につながり、逆にライナーやフライが増え、紙一重のミスショットの結果として内野フライが増えているのだとしたら、何となくすべてがつながるのだが、いかんせん、たかが17試合のデータである。何かを導きだすのだとしたら、せいぜい50試合程度のサンプルは欲しいところ。

打球傾向の変化を反映するBABIP

 ところで、セイバーメイトリックスの世界では、イチローのBABIPにシーズン前から注目が集まっていた。BABIPとは本塁打を除き、打球がインプレーになった場合の打率を指すが、通算で3割5分1厘のイチローのBABIPは昨年、2割9分5厘まで下がった。

 彼らは、BABIPの数字がどの程度回復するかでイチローの復調も図れるとし、おそらく回復するだろうと予想していたが、現在の数字――2割9分は彼らの想像を下回っている。

 この数字こそ、運に左右されるとされ、この時期に検証する意味はないのだろうが、先ほど紹介した打球傾向の変化をある面で反映していると言える。ゴロの減少など、その一つだろう。

 さて、選球眼、ゴロを打つ確率、フライを打つ確率……。これまでと比べれば違いが明確なそれらは、2012年のイチローの何を意味するのか?
 開幕間もないことから、単に結果が偏っているだけなのか、今季の兆候を示しているのか。継続してモニターすれば、イチローの目指す打撃スタイルもまた、見えてくるのかもしれない。

 ちなみに昨年、イチローのUZR(守備によってどれだけ失点を防いだかを、平均的野手との比較で表す数値)がマイナスを記録。それを加齢と結びつける見方もあったが、今年はいまのところ1.2で、UZR/150――つまり、150試合あたりではどうか、という数値では14.3と彼のキャリア平均を上回っている。

 22日の試合でも、二塁走者の福留孝介を見事に本塁で刺し、強肩健在を見せつけた。

 これでしばらくは、守備と年齢を結びつけられることはなさそうである。

<了>

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