そして才能が萌芽する=シリーズ東京ヴェルディ(2) 第8節、京都サンガF.C.に惜敗を喫す

海江田哲朗

J1昇格筆頭候補に挙げられる京都

東京Vは連勝が3で止まり、3位に後退。バックアップメンバーの質が勝負を分けた(写真は第2節のもの) 【Getty Images】

 京都サンガF.C.(以下、京都)の選手たちがスタンドに手を振り、四方八方からの歓声と拍手に笑顔で応えている。紫色のユニホームが西日に照らされ、鮮やかな光沢を帯びていた。一方、戦いに敗れた東京ヴェルディ(以下、東京V)の選手たちは、遠く西京極まで駆けつけたサポーターにあいさつし、足早に引き上げた。スコアは1−0。東京Vサイドから観戦する立場のわたしは、これを不当な結果とは感じなかった。どちらが勝者となってもおかしくなかったゲームだ。

 今季のJ1昇格争いにおいて、京都は筆頭候補に挙げられる。2011年、監督に大木武、ゼネラルマネジャーに祖母井秀隆を招へいし、上半期の成績は振るわなかったが、シーズン中盤以降はぐいぐい調子を上げ、最終的に7位でフィニッシュ。その勢いは天皇杯まで持続し、元日の晴れ舞台に立った(決勝戦はFC東京に2−4で敗れている)。新体制の2年目、いかにも勝負気配が漂う。

 開始からゲームはヒートアップした。京都の攻撃のキーマンである中村充孝が小林祐希をかわして前に出る。直後、今度は小林が中村を抜きにかかる。双方、逃げるつもりはこれっぽっちもない。東京Vと京都はともにパスワークを攻撃の軸とし、中盤から前は技巧に長けた選手を複数配している。大きな違いは、京都の韓国人プレーヤー、チョン・ウヨンの存在だ。巧さと屈強さを合わせ持つボランチが、チームの重心を安定させるのに一役買っている。

 最初の決定機は東京Vに訪れた。4分、西紀寛がクロスを入れ、中央でフリーの阿部拓馬が頭を合わせるが、シュートは左にそれていった。10分、今度は京都に決定機。宮吉拓実が頭で落としたボールを中村がシュート。しかし、これも枠をとらえられない。このほか前半の決定的なチャンスは1回ずつあったが、いずれもゴールに結びつけられなかった。

バックアップメンバーの質が勝負を分ける

 この日の東京Vはディフェンスの出来が特に良かった。和田拓也が猟犬のごとくボールを追い回し、センターバックに定位置を確保しつつある深津康太が果敢に前に出て、相手のくさびのパスをつぶす。これまでになく高い位置でボールを奪い、攻撃につなげられていた。互いに中盤を省略しないサッカーを貫き、真っ向勝負となったおかげで、東京Vはやり易さがあったに違いない。だが、後半も得点のチャンスを逃し続けた結果、一瞬の綻びを突かれてしまう。

 81分、京都は中山博貴から宮吉に縦パスが入り、ボックスに侵入した原一樹にダイレクトパスが渡る。原は浮き球をワンタッチで制御すると、右足を一閃。ニアサイドを豪快に打ち抜き、これが決勝点となった。

 東京Vに対して酷な表現になるが、バックアップメンバーの質が勝負を分けたゲームでもある。川勝良一監督は71分に小池純輝、80分にジョジマール、86分に梶川諒太を投入。1点をもぎ取ろうとしたが、あと一押しが利かず、逆に京都は途中出場の伊藤優汰がドリブルで攻撃にアクセントをつけ、原が試合を決める仕事をしている。

 左肩の負傷をおして出場した土屋征夫はゲームをこう振り返った。

「最低でも勝ち点1は欲しかった。失点シーンはあとでビデオを確認して修正しなければ。くさびのパスに対して、なぜ森(勇介)が行けなかったのか。ラストパスが出たとき、自分や(深津)康太のポジショニングはどうだったのか。そのとき体はどっちを向いていたのか、といった細かいところまで。体の向きが違うだけで半歩遅れる。正しい方向を向いていれば、間に合っていたかもしれない」

 ポジショニングのズレや体の向く角度など、ほんのわずかな部分でピンチを防げるかどうかが決まる。彼らが戦う世界のシビアな現実だ。

 この結果、東京Vは連勝が3で止まり、3位に後退。京都が2位に浮上した。8月12日、味の素スタジアムで行われるリターンマッチが今から楽しみである。

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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