そして才能が萌芽する=シリーズ東京ヴェルディ(2) 第8節、京都サンガF.C.に惜敗を喫す
中島翔哉が抱く夢
U−17W杯のブラジル戦でゴールを決めた中島。将来はバルサでのプレーを夢見る 【写真:MEXSPORT/アフロ】
この試合と同日、『高円宮杯U−18サッカーリーグ2012 プレミアリーグ』が開幕。第1節、東京ヴェルディユースは流通経済大学付属柏高校と対戦し、2−2のドローだった。監督は昨年までトップのコーチだった冨樫剛一が務めている。
チームの10番を中島翔哉という。小柄だがスピードがあり、キレ味抜群のドリブルを武器とするアタッカーだ。昨年、FIFA(国際サッカー連盟)U−17ワールドカップ・メキシコ大会に出場した日本代表のメンバーであり、準々決勝のブラジル戦でゴールを決めている。中島は今年4月から通信制の高校に編入し、サッカーに身を浸した日々を生きる。
「トップが午前と午後の2部練のときは、夕方のユースで3部練になるんです。その日がよりによって走りの練習だとツイてないなと思います(笑)」と屈託がない。
卒業を1年後に控えた時期に編入とは、ずいぶんと思い切ったものだ。そこに迷いはなかったのだろうか。
「勉強はもともと好きではないですけど、それなりにやっていました。ただ、成績がだんだん落ちてきて、中途半端になるのがいやだった。ユウキくん(小林祐希)も通信制だったし、それほど気にしなかったです。朝から晩までサッカーに集中して、トップの選手からいいところを盗みたい。とにかく、サッカーがやりたかった」
2月、ユースのチームメイトである吉野恭平とともに、トップの高知キャンプに参加したときはこう語っている。
「Aチームでバリバリやるつもりだったんですが、今回は自分の持ち味を出せずに反省ばかりです。大学生のチームには通用するプレー、一方でプロには通用しないプレー。自分のプレーを出せなくなるラインがあるんです。その基準を忘れないようにしたい。きちんと理解し、練習でひとつずつクリアしていくつもりです。そうして一歩ずつ階段を昇っていかないと、トップの試合に出て、将来バルサに行ったとき困ると思うので」
突然飛び出したバルサなるワードを聞いて、わたしは一瞬笑ってしまった。が、中島は大まじめな顔をしている。しまったと思ったけれども、もはや取り返しがつかない。すまんと謝るのも変だから黙っていた。
監督やコーチに求められる使命
サッカーをすることと生きることが、同義であるかのような生き方をする人がいる。中島から発せられるのは、その種の真剣さだ。
少年の才能は東京Vの練習場、通称「ランド」で萌芽する。順調なときばかりとは限らない。それぞれ起伏のある歳月を過ごし、現に今年トップに昇格した南秀仁や杉本竜士らの面々はプロの壁にぶち当たり、懸命にもがいている。
常に結果を求められるプロの世界で、若い選手を適切なタイミングで使い、育て上げていくのは容易ではない。将来を見据え、起用にこだわった結果、落とす試合も出てくるだろう。それでも両者をどうにかして成り立たせていくのが、川勝監督らコーチングスタッフに課せられた使命だ。
<了>