そして才能が萌芽する=シリーズ東京ヴェルディ(2) 第8節、京都サンガF.C.に惜敗を喫す

海江田哲朗

中島翔哉が抱く夢

U−17W杯のブラジル戦でゴールを決めた中島。将来はバルサでのプレーを夢見る 【写真:MEXSPORT/アフロ】

 東京Vと京都の一戦は上位対決のほかに、日本屈指の育成組織を持つクラブ同士の対戦としても注目に値するゲームだった。メンバーリストからユース出身者を拾い上げると、東京Vは小林、和田、高橋祥平、飯尾一慶、佐伯直哉。京都は宮吉、伊藤、駒井善成、久保裕也、児玉剛。両チーム、5名ずつ名を連ね、先日のオリンピック代表候補合宿には小林と宮吉が選出されている。昔から育成力に定評のある東京Vと比べ、京都は近年の躍進が著しい。2006年、効率的な選手育成を目的とするスカラーアスリートプロジェクトを立ち上げて以来、逸材を続々と輩出している。

 この試合と同日、『高円宮杯U−18サッカーリーグ2012 プレミアリーグ』が開幕。第1節、東京ヴェルディユースは流通経済大学付属柏高校と対戦し、2−2のドローだった。監督は昨年までトップのコーチだった冨樫剛一が務めている。

 チームの10番を中島翔哉という。小柄だがスピードがあり、キレ味抜群のドリブルを武器とするアタッカーだ。昨年、FIFA(国際サッカー連盟)U−17ワールドカップ・メキシコ大会に出場した日本代表のメンバーであり、準々決勝のブラジル戦でゴールを決めている。中島は今年4月から通信制の高校に編入し、サッカーに身を浸した日々を生きる。

「トップが午前と午後の2部練のときは、夕方のユースで3部練になるんです。その日がよりによって走りの練習だとツイてないなと思います(笑)」と屈託がない。

 卒業を1年後に控えた時期に編入とは、ずいぶんと思い切ったものだ。そこに迷いはなかったのだろうか。

「勉強はもともと好きではないですけど、それなりにやっていました。ただ、成績がだんだん落ちてきて、中途半端になるのがいやだった。ユウキくん(小林祐希)も通信制だったし、それほど気にしなかったです。朝から晩までサッカーに集中して、トップの選手からいいところを盗みたい。とにかく、サッカーがやりたかった」

 2月、ユースのチームメイトである吉野恭平とともに、トップの高知キャンプに参加したときはこう語っている。

「Aチームでバリバリやるつもりだったんですが、今回は自分の持ち味を出せずに反省ばかりです。大学生のチームには通用するプレー、一方でプロには通用しないプレー。自分のプレーを出せなくなるラインがあるんです。その基準を忘れないようにしたい。きちんと理解し、練習でひとつずつクリアしていくつもりです。そうして一歩ずつ階段を昇っていかないと、トップの試合に出て、将来バルサに行ったとき困ると思うので」

 突然飛び出したバルサなるワードを聞いて、わたしは一瞬笑ってしまった。が、中島は大まじめな顔をしている。しまったと思ったけれども、もはや取り返しがつかない。すまんと謝るのも変だから黙っていた。

監督やコーチに求められる使命

 その後、川勝監督と十代の選手の将来性を探る話になったとき、「目標は大いに語っていい。そんなの無理だよ、と周りがシラけさせてはいけない。だったらもっと頑張れと後押ししてあげないとね。若い人の可能性は誰にも分からないのだから」と聞き、自分の態度を猛省したものである。そんな川勝監督も中島と接し、「あいつは人の話を聞くとき、じっと見つめ返してくる。あの無垢(むく)な眼で真っ直ぐにね。視線を合わせていると、夜に飲み歩くのが悪いことをしている気分になる。今日はやめといて、おとなしく家に帰ろうかな(笑)」と生活態度の改善を考えた。

 サッカーをすることと生きることが、同義であるかのような生き方をする人がいる。中島から発せられるのは、その種の真剣さだ。

 少年の才能は東京Vの練習場、通称「ランド」で萌芽する。順調なときばかりとは限らない。それぞれ起伏のある歳月を過ごし、現に今年トップに昇格した南秀仁や杉本竜士らの面々はプロの壁にぶち当たり、懸命にもがいている。

 常に結果を求められるプロの世界で、若い選手を適切なタイミングで使い、育て上げていくのは容易ではない。将来を見据え、起用にこだわった結果、落とす試合も出てくるだろう。それでも両者をどうにかして成り立たせていくのが、川勝監督らコーチングスタッフに課せられた使命だ。

<了>

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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