桜花賞の栄冠来るか、京大卒の豪州人オーナー=ハナズゴールの馬主、M・タバート氏インタビュー

乗峯栄一

馬主資格の取得、預託厩舎探しと苦労の連続

[写真4]“チーム・ハナズゴール”のメンバー 【写真:乗峯栄一】

 しかし日本の馬主資格は厳しくて、これには苦労した。外国在住の外国人が日本で馬主になることが認められたのは2、3年前の話だが、マイケルは日本で永住権を持っているから、それは関係ない。問題は資産9千万とかという条件だ。聞くところによると「外国での資産は認められない」というような条項もあるらしい。
「外国の資産は認められないんだけど、色々計算してみると、我々のようなサラリーマンでも何とかクリアできる額だったんです。それこそ学生時代から馬主になりたくてコツコツ貯めてた、そう言うとすごいケチみたいだけど(笑)、そういうところもあったしね。そのへんはこの店(インタビューしている大阪新地の競馬バー“パドック”)で知り合った先輩馬主の山上和良さんから計算の仕方とか色々教わって、何とかなったんですよ(笑)。ほんと山上さんからは、馬主資格から、馬の買い付け・預託、そのほか一切のことを教わりました。“最初から2千万、3千万の馬を買ってしまうと破産するぞ”って教えてくれたのも山上さんで、これも忠実に守りました(笑)」

 09年の12月にマイケルは日本の馬主資格を取得する。馬主となってまだ2年と少しだが、初めの頃は預託厩舎に困った。
「そうですね、“この馬を買えばうちで預かるよ”と言われてセリに参加し、でもあとちょっとのところで予算オーバーして買えず、その厩舎に預けられなかったり、苦労しましたね。一番最初に預託できたのは牧浦厩舎のノアノアという馬だったんだけど、これは先に持っていた先輩馬主から譲り受けたような感じでした。このノアノアが去年の8月にやっと未勝利戦で1勝あげて、これが日本馬主として初勝利でした。そこから牧浦厩舎とは縁が出来て、いまもハナズルナピエナと、ハナズフルムーンという、どちらもアドマイヤムーンの子を預かってもらってます。どっちもまだ3歳未勝利だけど、特にルナピエナの方は2着が2回あって、そろそろ未勝利は脱出できると思うんだけど。加藤和調教師との出会いも、これもほんと偶然です。山上オーナーの紹介で、浦河のカナイシスタッドという牧場を紹介してもらって、そこにグラスワンダーの子で、これいいんじゃないかという馬がいたんです。そこの金石場長が中学時代、加藤和調教師と同級生だったらしく、加藤和調教師も“いいんじゃないか”と言ってくれて預かってもらうことになった、それがきっかけなんですね。この馬はタニという名前を付けて、全然走らなかったんだけど(笑)、でもそれ以後、加藤和厩舎とも縁が出来て、今年のハナズゴールにつながってるといえますね」

ハナズゴールを見初めたきっかけは?

[写真5]チューリップ賞快勝後のハナズゴール、担当の野本厩務員は“ひたむきに仕事をする男”という雰囲気を出している 【写真:乗峯栄一】

 タニは引退したんだよね。いま加藤和厩舎にいるのは?
「ハナズゴールとハナズフォーティという2頭です。いま一緒に栗東に入ってます。ハナズフォーティの方は帯同馬って感じなんですけど」[写真3・いつも一緒に行動しているハナズゴール(前)とハナズフォーティ(後)。3月28日栗東坂路角馬場で撮影]
「フォーティはなぜフォーティかというとセリで40万で買ったからなんです(笑)。ハナズゴールはこれはセリじゃないんで、言いにくいんですけど、種付け料プラスアルファで、でも200万以下でしたね」
 え!チューリップ賞の賞金がいくらだった?
「ええっと、3千万ぐらいでしたか」

 このとき、横にいた花代夫人が笑いながら「あの、そうはいっても、ほかの馬でいっぱい損してますから」とすかさずフォローをする。笑顔はかわいらしいし、さすが才女の片鱗を見せる。
「奥さんの名前を冠にするのは、陰で悪いことをしていることの罪滅ぼしなんだ」という説もあるけどと言うと、マイケルは「何言ってるんですか、そんな訳ないじゃないですか。オーストラリア人はそんな悪いことはしません」と今度は主人の方が必死で否定する。すばらしいカップルだ。

 ハナズゴールを見初めたきっかけは何だったの?
「これもまた山上オーナーの勧めだったんですけど、浦河のカナイシスタッドのさらに奥に不二牧場というのがあって、雪深いまだ2月でしたけど、山上オーナーがオレハマッテルゼの子でいいのがいると写真を送ってくれたんです。“自分はもう2歳馬いっぱい買ったからマイケルくんどうだ?”っていう感じで。それで、実際に見に行って、“ハナズゴールと3歳馬を一緒に買ってくれれば2百数十万でいい”という話になって、もう2月ですからね。2歳の2月でまだ繁殖牧場にいるというのも珍しいぐらいなんだけど、もう一頭は3歳馬ですからね(笑)。もう新馬戦もそろそろなくなる時期ですからね、ちょっと躊躇しましたけど(笑)。とにかくこのハナズゴールの方が、実際に計ったら400キロそこそこなんだけど、とても大きく見えて、それで買ったというところがあるんです。加藤和調教師も面倒みてくれるというし。でもね、その一緒に買った3歳馬の方も栗東の加藤敬厩舎にシャープナーという名前で入って、勝てはしなかったけど、そこそこ走ったんで、繁殖牝馬になりましたからね」

 じゃ、ハナズゴールのお母さん、シャンハイジェルっていう馬はその不二牧場にいるんやね?
「いまはもういないんです。韓国に行ってるんです。だからハナズゴールの下はいないんです」
 へえ! でも、ハナズゴールが重賞勝ったし、もし桜花賞でも勝ったら、もったいないねえ。
「桜花賞でも勝てば、どうするんだろ。不二牧場が呼び戻すかもしれないですね(笑)。不二牧場というのは夜間放牧やったり、水もバケツに溜まった雨水を飲ませるようにしたり、自然育成というのを重視する繁殖育成牧場なんですね、それもハナズゴールに合っていたのかもしれない」

浦河生まれ・浦河育ち、加藤和調教師も浦河出身

[写真6]左が加藤和宏調教師、右は美浦近郊にある外厩RYU RACING RANCHの栗林代表だが、ハナズゴールにとってもこの外厩の存在が大きいという 【写真:乗峯栄一】

 これ、調べてみると、チューリップ賞の2、3、4着、エピセアローム、ジョワドヴィーヴル、ジェンティルドンナというのはみんなノーザンファームの生産で、父親がダイワメジャーやディープインパクトで、いわゆる良血中の良血、そういう中で勝ったというのも凄いね。マイケルとしては、ムーンロケットで馬主へのきっかけをくれたノーザンファームに恩返ししたって感じやね。
「ノーザンファームにはもちろん感謝してるんですよ。でも、ぼくももちろん初重賞で、加藤和厩舎としても初重賞だったんだけど、この不二牧場としても生産馬の重賞制覇は1980年以来で、32年ぶりらしいんです。ともかくハナズゴールというのは、浦河の繁殖で、浦河で育成され、浦河出身の加藤和調教師の厩舎の所属ということで、浦河とか日高はすごく盛り上がってると聞いてるんですよ。そこがすごく嬉しいですね。実はチューリップ賞翌日の3月4日が加藤和調教師の誕生日で、加藤調教師は牧場見学も兼ねて、帰れるときは浦河で誕生日会を開くらしいんだけど、今年は特に盛り上がったようですよ」

 ハナズゴールが新馬戦勝った(日本馬主としてノアノアに続き2勝目)ときも、マイケルは友人の結婚式で余興をやっていたらしい。大勢から「勝ったで!」と祝福メールが来ていたときも、何のことかすぐに分からなかったという。しかしその後500万戦を上がり33秒0という時計で快勝し(日本3勝目)、マイケルの中にときめきが沸き上がる。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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