統一戦に臨む清水智信「一度は引退も考えた」=4月4日・WBA世界Wタイトルマッチ

ISM

内藤大助戦での悔しさをバネに

王座獲得後、勤務先のラーメン店で「チャンピオンらあめん」を試食する清水 【写真は共同】

――世界タイトルを獲得する3年前に、世界戦で内藤大助選手に敗れています(2008年7月30日のWBC世界フライ級タイトルマッチ)。その時の心境は?

 あの試合で負けた直後は『自分は世界王者にはなれないんだなぁ』と思って、落ち込みましたね。負けたことは相手の方が強かったということなので認めるしかないんですが、自分の力を出し切れなかったという悔しさがありました。だけど、徐々に逃した魚の大きさを感じてきて、『もう一度世界に挑戦して、あの続きをやりたい』という想いがあったし、『あの敗戦があるから、今の自分がある』と思えるような結果を出したいと思ったんです。

 でもそこからもきつかった。当時、僕は日本フライ級の王者だったので、負けるわけにはいかない戦いが続きましたからね。もう一度世界に挑戦するためには、日本王座の防衛戦で負けると一気にそれが遠のくので、一戦一戦プレッシャーは強く感じていました。まさに崖っぷちという心境でした。

――その苦しい時期を経て、昨年8月にカサレス選手に勝って、ついに世界王者になりました。

 あの時は、階級を上げるということに抵抗がありました。人には適正体重というものがあると思うんですが、僕はフライ級でそんなに減量がきついわけでもなく、ここが適正体重だと思っていましたからね。毎回減量に苦しんで、ギリギリのコンディションでやっていれば別ですが、スーパーフライに上げた方が実力を発揮できるとは感じていませんでした。だから試合の1カ月前にいきなり『スーパーフライで』と言われた時は戸惑いました。

 大体、その時点でスーパーフライのリミットまであと1.5キロという状態でしたし、内藤選手に負けた後にフライ級の日本王座を4度防衛してきて、『自分がフライ級の日本最強だ』というプライドもありました。次に負けたら引退と決めていたし、自分としてはフライ級で世界を獲りたいという想いも強かった。それでも、世界戦に挑戦したいという気持ちもあったので、最後のチャンスという想いで階級を上げることを決断したわけです。

――4月4日にテーパリット選手に勝った場合、亀田興毅選手が挑戦してくる可能性があるといううわさもありますが?

 そういった報道を耳にしたことはあります。ただ、今はそのことは全く考えていません。今はテーパリット選手に勝つということだけです。とにかく目の前の試合ですね。将来的なことを敢えて言うならば、最終的には自分がずっとやってきたフライ級に戻ってタイトルを獲りたいという想いはあります。

童顔がコンプレックス

――では少し話を変えて、清水選手がボクシングを始めたきっかけを教えてください。

 ボクシングを始めたのは高校1年の時です。中学までサッカーをやっていたので高校でもサッカー部に入ったら、また1年生として球拾いからやり直しという状況に嫌気がさしてきて挫折したというか……。友達と遊んでいる方が楽しくなってきて、部を辞めてしまったんです。でも、遊んでいても段々とむなしく感じ始めてきて、そのモヤモヤした気持ちと溜まっているエネルギーをぶつける相手を探していました。その相手がたまたまボクシングだったということですね。あと、顔が幼かったので、ナメられたくないという気持ちも……(笑)。


――清水選手には『スピードスター』というニックネームがありますが、自身ではどう思っていますか?

 スピードが速い人はたくさんいますから、なんて言っていいか分からないですが、全体的な流れ、ステップワーク、左のパンチについてのスピードには自信がありますね。やっぱりお客さんには速くて綺麗なボクシングを見せたいと思っています。


――また、清水選手は『イケメンボクサー』という言われ方をすることも多いですが、それに対しては?

 昔はすごく嫌でしたね。大体、童顔がコンプレックスでボクシングを始めたというのもあるので……(笑)。そんな感じだったので、プロ3戦目で目の上をザックリ切ってしまった時なんかは、逆に『これでハクが付く!』なんて思っていたぐらいでしたから(笑)。

 大体、僕はイケメンじゃないんですよ! ただの童顔だってだけなんです(笑)。本当に格好いいボクサーの人たちに申し訳ない気持ちになりますね。今はチャンピオンになったというのもありますが、あまり気にしてないし、それが話題になるのであればプラスに受けとめようと思っていますが、昔は本当に恥ずかしかったですね。

――清水選手は結婚されていますが、家族はボクシングをやる上でどのような存在ですか?

 妻は大学時代の同級生なんです。大学1年から付き合って08年に結婚しました。試合前で周りが騒がしくなっても、家に帰ると彼女はいつも通り自然に接してくれるので助かります。僕も、もちろん家族のためにボクシングで結果を出したいと思っているけど、それを彼女にまで背負わせたくはない。だから、彼女がどんな時も自然体で接してくれるのはありがたいです。

 僕みたいな人間に付いてきてくれて、彼女には感謝しています。彼女ぐらいしか僕と一緒にいてくれる人はいないんじゃないかな(笑)。本当に感謝していますね。

――学習塾で講師を務める時もあるとうかがっていますが?

 僕はデビュー当時から『九州じゃんがら』(東京都内のラーメン店)にお世話になっていて、社員として所属しているのですが、『九州じゃんがら』と同じ経営母体が運営する学習塾(ブルカン塾)で講義を月に1回程度やっています。勉強自体についてではなくて、例えば子供たちが受験前の場合、自分の試合前の心境や体験談を話したりといった講義です。僕は子供たちに『努力は必ず報われるよ』と言っているのですが、自分がその言葉を証明しなきゃいけないという想いはありますね。

 子供たちは本当に僕に可能性を見せてくれます。例えば、女の子の生徒に『清水先生、次の試合勝ってくださいね。私も頑張って、次のテストで全教科80点以上とります!』と言われたことがあるんですが、その子は本当に平均点を20点ぐらいアップさせて全教科80点以上とってきたんです。子供たちが、僕が言ったことやボクシングの試合を通じて何かを感じ、成長する姿を見せてくれると本当にうれしいですよね。やりがいもありますし、僕もたくさんの刺激をもらっています。

――最後に、試合を見るファンや視聴者の方にメッセージをください。

 4月4日は統一戦なので、テーパリット選手と僕のどちらがチャンピオンなのか証明するための戦いです。プライドをかけて、自分がチャンピオンだと証明したい。負けたら引退という覚悟で戦うつもりです。自分のボクシングを全て出し切って、必ず勝ちたいと思います!

<了>

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