コートに戻って来た高橋みゆきの現在地=女子バレー

田中夕子

これまでの経験で培った術をチームに

日の丸の重責を担ってきた高橋の経験は代表選手のいないチームには大きな力となっている 【坂本清】

 リーグが開幕してからも、何度も繰り返し、葛和が高橋に言い続けたことがある。
「若いのを育てるのが上級生の仕事や」
 12月の天皇杯・皇后杯ファイナルラウンドでレフトに入った竹田沙希が、試合中にブロックアウトを狙うも、うまく弾けずそのまま相手ブロックに捕まった。竹田に向けて、葛和の怒声が飛び、その矛先は高橋にも向けられる。
「コイツがうまくできないのは、お前がちゃんと教えてないからや」

 NECのころから、後輩たちとのコミュニケーションは積極的に図るタイプだった。だがプレーに関しては別。手取り足取り打ち方やポイントを教えるというよりも、自分のプレーで見せて、その姿から学んでくれればいい。積極的に自らの技を伝授するようなことはしなかった。

 しかし、今は違う。若手の自主練習にも一緒に参加し、その都度、身ぶり手ぶりを交えて伝える。試合中も竹田がブロックで捕まればすぐさま声をかけ、短い言葉で修正すべき点を伝える。技術面だけでなく、絶対に負けられない試合で、勝つためにどんなプレーをすればいいのか。ただ、がむしゃらにボールを追うだけでなく、ここぞというポイントを読み、相手の弱点を徹底的に突くためのデータをどう活用すべきか。
 これまで日の丸の重責を担う経験で培った幾多もの術(すべ)を、包み隠さずチームに伝えた。

 とはいえ、言葉だけでなく、プレーでも見せる姿勢は変わらない。「負けたら終わり」の第3レグ、2月26日のデンソー戦では攻守両面において、高橋は勝利の立役者と言うべき活躍を見せた。
 開幕前に「全く戦力にならない」と切り捨て、2月中旬に地元山形で連敗を喫した際には「全然ダメ。(全盛期の)4割にも達していない」と辛らつな評価を下してきた葛和が、ようやく高橋をたたえた。
「たいしたものです。気持ちの強さは普通じゃない」
 復帰以来、初の及第点。「よく動きました」と高橋は照れ笑いを浮かべた。

攻撃面で感じる歯がゆさと決意

 ブランクがあるにも関わらず、チームに果たした貢献度、若手への影響力、どれを取っても想定外の働きではある。
 だがその反面、ここぞという場面でのブロックアウトや、勝負強さは健在だが、それはあくまで「2年半ぶりにしては」という感も否めない。

 かつては難なく間を抜いていた2枚ブロックにかかる場面は増え、ブロックアウトを狙っても相手に交わされることも少なくない。本人の意思とは別に、代表復帰を望む声もあるだろうが、現時点のプレーでは、おそらくそれも程遠い。
 全盛期と比べてしまうのは酷なことだが、リーグで全勝優勝を経験したこともある高橋が、今季はチャレンジリーグ上位チームとの入れ替え戦に臨む。厳しい結果が、容赦なく突き付けられている。
 特に攻撃面において、誰よりも高橋自身が歯がゆさを感じ続けているのが現実だ。

 望んだ結果ではないかもしれない。
 それでも、ここで諦めるわけにはいかない。
「まだ半分も戻っていない状態だけど、コートに立つ以上、そんなことを言っていられません。できる限りのことをしないと、戻ってきた意味がないですから」
 いつか、終わりを迎えるその日まで――。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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