すでに始まったソチ五輪への序章 ロシア、米国からメダル候補続出=フィギュア・世界ジュニア女子シングル

野口美恵

左から、銀メダルのゴールド(米国)、優勝したリプニツカヤ(ロシア)、銅メダルのソトニコワ(ロシア)。フィギュア大国の層の厚さを見せつけた 【森美和】

 なんとロシアと米国の、ジュニア層の厚いことか――。世界ジュニア選手権(2月27日〜3月4日)がベラルーシの首都ミンスクで行われ、ロシアの13歳ユリア・リプニツカヤが優勝。米国の16歳グレイシー・ゴールドが2位。そして昨季女王の15歳アデリナ・ソトニコワ(ロシア)は3位となった。リプニツカヤのマークしたジュニア女子の史上最高点187.05点は、各国の五輪青写真を変化させるのに十分な点数だった。

「アイロン・ウーマン」の誕生とロシア女子の激戦化

「彼女はアイロン・ウーマン(鉄の女)。どうやったらあんなにミスしないのか、彼女に教えて欲しいものだわ」

 3位になったソトニコワが、すべての要素をノーミスでこなしたリプニツカヤを評して口にした言葉だ。シニアに上がったソトニコワは今季、ジャンプのミスが目立つ。今大会でも、ショート3位になるとショックのためにテレビインタビューを拒否。銅メダリストとなっても笑顔はなく、苦し紛れに答えたのはこんな風に自分を卑下する言葉だった。

 ソトニコワがこんなにも苦しむのは、ロシア女子にとって2014年ソチ五輪の代表選考が、もう実質的に始まっているからだ。自国開催の五輪をめざし、メダル候補級の選手が雨後のたけのこのように登場している。

 昨季世界ジュニア銀メダルのエリザベータ・トゥクタミシェワは、今季のグランプリ(GP)シリーズで2連勝し見事なシニアデビューを飾った。ニコライ・モロゾフに師事するアリーナ・レオノワはGPファイナルで3位。ジュニアのポリーナ・シェレペンはジュニアGPで2連勝。ロシア国内選手権では、ソトニコワが意地の優勝を果たしたものの、今年1月のユース五輪ではトゥクタミシェワが金、ソトニコワが銀。ロシア女子たちは国際大会の場で、壮絶な国内ランキング争いを繰り広げている。

 そこに、さらなる「五輪金メダル候補」として舞い降りたのが、リプニツカヤ。ソトニコワの警戒心も無理はない。五輪出場枠は3枠しかないのだ。

リプニツカヤ、驚異の180度超え開脚 高難度のジャンプ力を示したソトニコワ

今季ジュニアで無敗のリプニツカヤ(ロシア)。今大会でもシニアに匹敵する高得点をマークして優勝を飾った 【森美和】

 リプニツカヤの演技は圧巻だった。「ダブルアクセル+トリプルトゥループ」の流れの良さと安定感は、他の選手と一線を画す。さらに特筆すべきは、子どもの頃に新体操を習っていたという驚異の柔軟性だ。180度以上の開脚が可能で、ビールマンスピンもI字スピンも、体と脚がピタリとくっつき一本の棒になって加速する。それはまるで人間ではない未知の物体で、何人ものジャッジがスピンに最高評価の「+3」をマークした。

「本当に理想的な演技ができました。まさか優勝するなんて思っていなかったので、得点を見てもボーっとしてしまいました。まだ取材を受けるのは慣れていないし緊張します」とシャイな一面を見せながらも、「夢はソチ五輪に出場すること」と言い切った。

 もちろんソトニコワの演技も素晴らしいものだった。ショートでは「トリプルトゥループ+トリプルトゥループ」を、フリーでは難度の最も高い「トリプルルッツ+トリプルループ」を成功させた。スピードも昨季より増して、シニアの滑りへと変化している。

「ミスはあったけれど、私は難度の高いジャンプがちゃんとできるということは証明できました」とソトニコワ。トリプルアクセルの可能性について聞かれると、リプニツカヤとゴールドが「まだ全然」と答えたのに対し、「練習では降りたわ! ちょっと回転不足だけど」とアピールする場面も。ロシアの国内女王には、危機感が見え隠れした。

 2人の影で注目が低かったポリーナ・シェレペンも、ショートはミスがあったものの、フリーは「トリプルルッツ+トリプルトゥループ」と「トリプルサルコウ+トリプルトゥループ」を成功し4位、総合6位につけ、存在感を示した。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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