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猛き風にのせて=シリーズ東京ヴェルディ(1)
J2開幕、松本山雅FCを2発一蹴

10番とキャプテンを担う19歳

今季初ゴールは19歳の新キャプテン、小林がマーク。左足で強烈なミドルシュートをたたき込んだ
今季初ゴールは19歳の新キャプテン、小林がマーク。左足で強烈なミドルシュートをたたき込んだ【写真は共同】

 京王線の飛田給駅を降りると、駅前の広場に緑の人だかりができていた。3月4日、J1よりひと足早く、J2がスタート。東京ヴェルディ(以下、東京V)の2012年シーズンの幕開けとあって、さすがに人出が多いと感心していたら、対戦相手の松本山雅FC(以下、松本)のチームカラーも緑である。よって、駅前の群衆は緑の混沌(こんとん)。近寄って確認すると、松本のビリジアングリーンの方が多く目についた。


 東京Vを率いる川勝良一監督は今季で3シーズン目を迎えた。前身のヴェルディ川崎時代を含めて、同じ監督が2年以上続けて指揮を執った例はなく、川勝体制3年目はこのクラブが未踏の領域に入ったことを意味する。「監督より靴下の方が長持ちする」と言われるクラブが継続性を重視して取り組んだ結果、果たして何を生み出せるのか。今季はその価値が問われるシーズンだ。


 川勝監督は新チームのキャプテンに19歳の小林祐希を指名した。2010年、東京Vユース所属の小林は2種登録でトップの試合に4試合出場。2011年、ユースから昇格し、34試合2得点をマーク。中盤の底に定位置を獲得した気鋭の若手である。しかも今季から、ラモス瑠偉をはじめ歴代の名選手が背負った10番を着けることが決定していた。


 わたしの知る小林という選手は、溢れんばかりの自負心が服を着て歩いているような若者である。思ったことをはっきり主張し、それは相手が年上だろうが関係ない。よって、これまで周囲と摩擦が起きることも少なくなかった。例えば、同世代の俊英たちとの比較について、小林はこう述べている。


「よく比べられるのは、代表のチームメートでポジションの重なるガク(柴崎岳/鹿島アントラーズ)、シュウト(小島秀仁/浦和レッズ)あたりですかね。負けると思ってないですよ。自分では誰にも負ける気がしない。特別だと感じるのは、宇佐美(貴史/バイエルン・ミュンヘン)、ヨシアキ(高木善朗/ユトレヒト)、ケンユウ(杉本健勇/セレッソ大阪)など、ほんの一部だけ」


 こういったことを表情を変えず、さらりと言う。おそらく、本人にビッグマウスの意識はない。わたしは10番はともかく、キャプテンの大役はギャンブルだと思った。聞けば、これまで副キャプテンの経験すらないという。


「小学生のころかな。チームで一番うまいやつがキャプテンをやるのが当然だと思っていたんです。おれは誰よりも練習していたし、誰よりもサッカーに懸けていた。サッカー小僧であることに強い誇りを持っていた。だから、すっかりそのつもりでいたのに、あいつだとチームがまとまらないよな、みたいな雰囲気ができて、ほかの選手がキャプテンになった。その時はショックで2、3日練習を休みました」


 以降、リーダーの資質は明らかになっていない。仮に、過去の小林を知る人々の声を集めれば、疑問とする意見が賛同を大きく上回るだろうと予想される。これに川勝監督は意に介さない様子で言った。

「まったく心配していない。能力のある選手がほかの選手より重い荷物を背負うのは当然のこと。年齢は関係ないでしょ。あいつはキャプテンで10番を背負う理由をこれから作るよ」

今季最初の得点は小林の左足から

 試合開始直前、味の素スタジアムのメーンスタンドから右手を見ると、松本のサポーターがゴール裏を埋め尽くし、2階席まで進出していた。後に公式発表があり、この日の入場者数1万2432人のうち、東京V側が5577人、松本側が6855人と明らかになっている。なお、開幕戦すべてのカードの中で、同スタジアムの入場者数が最多である。


 前半、東京Vがボールポゼッションで優位に立ったが、実際は松本のペースだった。松本は前線のエイジソン、木島徹也に縦パスを供給し、少ない手数でチャンスを演出する。16分、東京Vは決定的なピンチを作られ、GKの柴崎貴広が木島との1対1を防がなければ、結果はまるで違うものになっていたかもしれない。東京Vのパス回しより相手の出足の方が速く、食いつかれ、やむなくボールを下げ、苦しまぎれのロングキックでリズムが断絶する場面が目立った。


 ともかく、貧しい内容ながらも東京Vは0−0でゲームを折り返す。サッカーの90分には濃淡がある。オセロの駒のように形勢が一気に反転することがあるのもサッカーだ。この日、東京Vには2人の小林がいた。前半の小林は足元のテクニックに多少見どころがあるだけの、凡庸なさばき屋である。後半になって、もう1人の小林が現れた。


 東京Vはキックオフのボールを右に展開し、中央でパスを受けた小林が強烈なミドルシュートを打つ。ホイッスルから10秒ちょっとしか経っていない。自分がゲームを動かすという無言の宣誓だった。そして、今季最初の得点は小林の左足から生まれた。51分、ゴール正面のルーズボールを見逃さず、ダイレクトで左足を振り抜き、これが相手に当たってゴールネットを揺らす。小林は左腕の腕章を抜き取り、口づけをしながらサポーターが沸騰するスタンドに向かって疾走した。


 54分、小林はボックスの手前でボールを持ち、そこから密集地帯に敢然と突っ込んでいった。取れるものなら取ってみろのドリブルである。1人、2人とかわし、あと一歩のところで阻まれた。小林には、数ある選択肢の中から、瞬間的に最良の一手を感性で引き出せる才覚がある。これがわたしの定める、彼が特別な攻撃手たる理由だ。


 勢いに乗った東京Vは松本を一気に仕留めにかかった。58分、阿部拓馬のドリブル突破から、スルーパスを受けたジョジマールが追加点。この場面では西紀寛、和田拓也がゴール前に走り込み、阿部のマークを分散させていたのも効いていた。阿部のプレースタイルを一言で表すなら“前進流”だ。球際の争いをしなやかな身のこなしで制し、スピードとパワーでゴリゴリ突き進む。そこへあんな鮮やかなラストパスまで加わったら、相手はお手上げである。

海江田哲朗

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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