猛き風にのせて=シリーズ東京ヴェルディ(1) J2開幕、松本山雅FCを2発一蹴

海江田哲朗

川勝監督が公言「J1に上がる」

東京Vは力の差を見せつけ、松本に快勝。川勝監督が公言するJ1昇格へ、幸先のいいスタートを切った 【写真は共同】

 2点差とされた松本に抵抗するすべは残されておらず、ゲームはこのまま幕引きとなった。東京Vにとっては結果を出したことが何より重要だ。開幕戦のような特別なシチュエーションでは力の差が反映されないケースが多々見られる。後半は松本を圧倒し、サッカーの内容でも差を見せつけた。

「ハーフタイム、きっと監督はおれらを怒鳴りつけたかったと思います。それなのに『今までやってきたことをシンプルにやろう』と諭すように話してくれ、自信を取り戻せた。監督に言われて変わるようでは三流ですよ」
 と殊勲を立てたキャプテンは試合を振り返り、ほどけるように笑った。

 J2のサッカーを煎じ詰めると「強い部分で勝つのではなく、弱い部分で負ける」戦いである。要するに、よほど飛び抜けた力がなければ、短所の少ないチームの方が結果を出せる。一方で、川勝監督の描く計画はこれと真っ向から対立するものだ。

「サッカーを訳知り顔で話す人間が『ディフェンスのラインコントロールが見事ですね』とか『すきのない守備ブロックの形成』などと称賛して言うでしょ? アホかと。あんなもん崩すのは簡単なんだよ。攻略する気があるかないか、やるかやらないかの問題。うちの選手たちは針の穴にパスを通す。引っかかりそうな狭いところをあえて狙い、こじ開ける。その連続性に個人技を織り交ぜ、ゴールを手中にする。サッカーの最大の面白さはそこにあるからね。ダイレクトパスの連続で相手の守備網をかいくぐるのは、一見すると偶然に見えるだろうがそうではない。意図的にやり、必然まで高める」

 今季の始動から間もないころ、川勝監督はある新加入選手に激高し、叱り飛ばしている。苛烈な言葉のつぶてが、グラウンドの脇に立つわたしのところまで途切れ途切れに聞こえてきた。
「おまえは何をしにここに来た?」
「時間がないんだぞ。今日一日で完ぺきにできるまでやろうとしているんだ」
「今すぐ荷物をまとめて、とっとと帰れッ」
 東京Vのトレーニングはこんな光景の連続だ。

 今季、東京Vの不安要素のひとつは、昨年の主力が多数抜け(特に前線のメンバーは阿部を除いてほぼ総取っ換え)、これで継続性を持たせることができるのかということだった。ところが、西、小池純輝、ジョジマールといった新加入組がスムーズにフィットし、丹念に塗り重ねた厚みを感じさせるチームに仕上がりつつある。「今年は結果にこだわる。さらに次元の違うサッカーで相手を圧倒し、J1に上がる」と川勝監督は公言。緑の丘から吹き下ろされる猛き風が、2012年のJ2を席巻する。

<了>

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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