世界を驚かせた“伏兵”とソチを見据えるエース、それぞれの戦い=フィギュア四大陸選手権・男子シングル

青嶋ひろの

海外メディアを驚かせた無良と町田の好発進

生き生きとした滑りで「黒い瞳」を演じた町田樹は思わずガッツポーズ 【写真:AP/アフロ】

 「申し訳ないが、君のことをあまりよく知らないんだ。日本の国内戦ではどうだったんだ? なぜ、世界選手権に出ないんだ?」
 四大陸選手権ショートプログラム(SP)終了後、上位3名の記者会見にて、無良崇人に向けられた質問である。順位表を見れば、1位のパトリック・チャンに続き3枚の日の丸――2位無良崇人、3位高橋大輔、4位町田樹という成績。「高橋、小塚、織田、羽生……それだけじゃないのか? 日本には、さらにこんな選手までいるのか?」という海外メディアの驚きに、もう誇らしい気持ちでいっぱいになってしまった。

 世界のメダルを持っている高橋と小塚崇彦、もうあと一歩のところにいる織田信成、羽生結弦の4人は、間違いなく世界のトップスケーターだろう。それだけでも十分脅威なのに、今大会SPでは、無良が4回転−3回転を豪快に決め、転倒した高橋大輔を越える2位に。町田も4回転こそなかったものの、トリプルアクセルと「黒い瞳」のスタイリッシュかつチャーミングな演技で大喝采を浴び、4位に。今シーズン、グランプリシリーズにさえ出場していない無良、NHK杯一戦しか出場できなかった町田――ふたりの強さに、海外メディアは目を見張ったようだ。日本ではこのレベルの選手でさえ、大きな国際大会に出ることが難しいのか、と。

「幸せな3分間」と町田、無良は「自信になった」

 「ほんとうに幸せな3分間でした。2年間滑ってきて、一番いい『黒い瞳』が滑れた。そんな思いから、ガッツポーズもしてしまって(笑)。いつもならばコンビネーションジャンプが終わるまでは、緊張で顔がこわばっているんですが、今日は氷の上に立った時からリラックスしていました。立った時から『できる!』って気持ちだったんです。やっぱりここに来るまでに、ものすごい練習をしてきましたから。四大陸はもしかしたら、今シーズン最後の試合になるかもしれない。だから守ろう、ではなく、すべて出し切ろうという気持ちで……なんだかいつもとは、違う自分でした」(町田)

 「今シーズンは4回転−3回転を入れて完璧にできたショートがなかったので、やっぱり緊張しました。これまでは『4回転、失敗したくない!』という気持ちで、攻められなかった。気持ちが引いてスピードに乗れずにジャンプを失敗する、そんな試合がすごく多かったんです。でも今回はきれいに回れた! そして何よりも、4回転だけでなく最後まで意識を持って他のジャンプにも臨めたし、プログラムも滑り切れた。ほんとうにうれしかったし、自信になりました」(無良)

ビッグイベントへの切符がモチベーションに

 SPで成功した要因、ふたりに共通するものは、四大陸選手権の出場権を得たことだという。昨シーズンとは違い、全日本での悔しさを晴らす大きな舞台が待っていること、それが大きなモチベーションになり、この2カ月弱で相当の練習を積めたというのだ。
 今シーズンの羽生結弦の躍進を見て、ひょっとしたらソチ五輪の男子メンバーは、これで固まったかもしれない――そんな見方をする人も多かった。悔しいのはその雰囲気を肌で感じていた、全日本4位の町田と5位の無良だ。もちろん彼らだって、ソチ五輪を大きな目標にして、練習を積んでいる。今シーズン、町田はステファン・ランビエール、無良はトム・ディクソンという振付師に出会い、ジャンプ技術だけでなく表現においても、自身を開花させていた。町田はロサンゼルス、無良はコロラドスプリングスと、新しい環境での練習にも励んだ。それでも叶わなかった、世界選手権代表という夢。しかしふたりはここで腐ることなく、世界に名を知ってもらえる格好の舞台、四大陸選手権を目指してストイックなトレーニングを積んだのだ。その努力のすべてが結晶したような、ショートプログラムだった。
 これでまた、日本男子のソチ代表は分からなくなったね――そんな声が上がっていた。

1/3ページ

著者プロフィール

静岡県浜松市出身、フリーライター。02年よりフィギュアスケートを取材。昨シーズンは『フィギュアスケート 2011─2012シーズン オフィシャルガイドブック』(朝日新聞出版)、『日本女子フィギュアスケートファンブック2012』(扶桑社)、『日本男子フィギュアスケートファンブックCutting Edge2012』(スキージャーナル)などに執筆。著書に『バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート 最強男子。』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』(角川書店)などがある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント