世界を驚かせた“伏兵”とソチを見据えるエース、それぞれの戦い=フィギュア四大陸選手権・男子シングル

青嶋ひろの

期待されたフリーではそろって崩れる

4回転−3回転を決めて高橋大輔の上に立った無良崇人。フリーではその位置がプレッシャーになった 【Getty Images】

 日本男子間での表彰台争いを楽しみにしていたフリー。しかし結果は、無良崇人がぜひ決めたかった4回転のみならず、トリプルフリップ、トリプルサルコウまでダブルになり、フリー6位、総合5位。町田樹は4回転の転倒のほかに、いくつかのジャンプがシングルになるミスを重ね、フリー10位、総合7位という結果に終わる。しかしジャンプの失敗以上に残念だったのは、昨日あれだけ生き生きしていたふたりの演技が、まるで別物のように弱々しく、精彩を欠いてしまったこと。

 町田が乱れた一番の原因は、久しぶりにフリーで4回転を入れたことだという。
「全日本まで4回転を抜く試合が多くて、でも今回はやっぱり入れたくて……。4回転、練習での調子は良かったけれど、本番で転んでしまって動揺しましたね。それで中盤から、かなりきつくなった。最後まで気を抜かずに滑ろうとは思ったけれど、結果こういうことになってしまって。昨日のいい気持ちを引きずったままではいけないので、フリーは新たな気持ちで臨むことができたはずなんですが……」(町田)

 一方無良は、ショート2位という思わぬ順位が、過度の緊張につながったという。
「今シーズン、ショートとフリーの両方うまくいった試合がなくて……。今回はショートでいい演技ができたぶん、『フリーはできないんじゃないか』って変な不安、怖い気持ちがすごく大きかったんです。4回転も、朝の練習でも6分練習でも『やばいかな』と思った。いつもならそこで修正の仕方を自分で見つけられるけれど、今日は落ち着かず、どうしたらいいかまったく浮かんでこなくて……。滑りだしてからもどうしよう、どうしよう、と真っ白になってしまった。
 悔しいですね。経験も足りないし、精神的な弱さもそのまま出てしまいました。技術的には上達しているのに失敗してしまうのは、身体よりも心が弱い。今回のようにうまくいけば表彰台圏内、という試合はジュニア以来ですし、すごくいい経験になりました。こんな時でもいかに強くいられるかが、来シーズンに向けて克服すべき課題かな」

世界のトップに立つために必要なもの

 身体よりも、心が弱い――無良崇人のこのひとことが、今のふたりを端的に言い表している。SPを見れば、ふたりがどれだけこの大会に向けて充実した練習を積んだかがわかるし、無良は4回転を駆使すれば高橋大輔さえ凌駕(りょうが)できることを、町田はそのパフォーマンスで誰よりも大きな喝采を受けられるところを見せてくれた。技・芸をここまで高めたからには、あとは心。彼らが四大陸ではなく世界選手権の氷に立ちたいのなら、本気でソチ五輪を目指すならば、今より数倍強い精神力が必要だ。今回、SPだけでも高橋大輔に迫り、彼を焦らせる力が自分たちにあることを知ったのは、大きな収穫だろう。次に私たちの前に姿を見せる時、「さすがは!」と唸らせるような演技を、必ずや見せてもらいたい。

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著者プロフィール

静岡県浜松市出身、フリーライター。02年よりフィギュアスケートを取材。昨シーズンは『フィギュアスケート 2011─2012シーズン オフィシャルガイドブック』(朝日新聞出版)、『日本女子フィギュアスケートファンブック2012』(扶桑社)、『日本男子フィギュアスケートファンブックCutting Edge2012』(スキージャーナル)などに執筆。著書に『バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート 最強男子。』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』(角川書店)などがある

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