世界を驚かせた“伏兵”とソチを見据えるエース、それぞれの戦い=フィギュア四大陸選手権・男子シングル
「カナダの怪物」と戦う日本のエースは……
世界チャンピオンのチャンに今季3戦3敗の高橋大輔(左)。しかし、あくまでも目標はソチ五輪だ 【Getty Images】
もちろん、様々なハンディは背負っていた。ただでさえ標高が高いコロラドスプリングス、どんな選手でもフリーを滑り切るのに通常以上に体力を要する中、高橋はもうすぐ26歳、チャンは21歳。しかもチャンはこのコロラドスプリングスこそが、常時練習しているホームリンクである。そして高橋は、右膝靭帯の抜釘手術を昨年5月に終えたばかり。今シーズンはまだ全日本での1度しか決めていないほど、4回転が本調子ではない状態だ。
4年前、2008年の四大陸選手権で、4回転を2回成功させて優勝した時に比べれば、日本のエースは万全ではないし、若くもない。それでも彼は、日本の一番手としてカナダの怪物と戦っているのだ――そう、再確認した一戦でもあった。少しだけ、彼には酷なのかもしれない、と。
しかし高橋は、チャンとの総合得点30点差というスコアを目の当たりにしても、意外にさっぱりとした表情で、こちらの質問に答えてくれた。
大差の得点も「かえってすっきり」
とにかく今年は『ちょっとずつ、ちょっとずつ』と思ってきた。実は今シーズンが始まる前、今年はダメかも、色々間に合わないかも……と思っていました。それでもファイナル、全日本とここまできて、あれ、思ったより成績は出ているな、と(笑)。確かに昨シーズンとは全然違って、はっきりと色々なものが『モノになっている』、そんな手応えを1年を通して感じています。これでもし今シーズン、最後の成果として出なかったとしても、来シーズンにはきっと活きてくる、と。やっぱり焦らずにやっていきたいな。特に4回転なんて、周りの選手がどんどん跳ぶので、焦ってしまいがちですけれどね(笑)。でもやっぱり、自分のペースで取り組んでいきたい」
目先の結果ではなく、ソチ五輪を目指した取り組み
ソチ五輪までの現役続行を決断した時、これまでのように1年ごとに目標を立てて取り組むのではなく、ソチまでの3年間をひとかたまりで考え、成長していくことを決めたのだという。今大会だけでなく、おそらく3月の世界選手権も、高橋大輔のなかでは「ソチへの道半ば」。目先の結果ではなく、最終的な完成を目指す彼の姿勢を理解して、あと2年間を彼と一緒に「楽しんで」いこう。
完璧ではなかったフリーの「ブルース・フォー・クルック」。それでもコロラドスプリングスのお客さんは、彼の一級品の演技に大喜びで立ち上がった。NHK杯などに比べれば、彼自身も納得のいく出来ではなかったけれど、スケート好きのお客さんたちを唸らせる演技を見せられるのは、やはり我らがエースなのだから。