ボルトン移籍の宮市に膨らむ期待=先輩ウィルシャーの成功に続けるか

平床大輔

ボルトンへの移籍は成功のモデルケースに

アーセナルからボルトンへの移籍は成功へのモデルケースとなっているだけに、宮市にかかる期待は大きい 【写真:Press Association/アフロ】

 アーセナルの宮市亮がボルトンへ期限付き移籍することが発表され、今シーズン残りの5カ月間をイングランド北部の老舗クラブのフットボーラーとして戦うことが決定した。これは、誠にもって朗報である。

 この報を受け、真っ先に脳裏をかすめるのが、2001年の西澤明訓や05年の中田英寿といった、かつてボルトンでプレミアリーグに挑戦した日本人フットボーラーの先人たちではなく、2シーズン前にやはり冬場の移籍マーケットでアーセナルからボルトンへローン移籍したジャック・ウィルシャーであるところに、宮市のフットボーラーとして備えたスケールの大きさと、将来性の高さを感じずにはいられない。宮市は、単なる日本人フットボーラーという殻を突き破り、将来有望な若手プレミアリーガーにカテゴライズされているのだと再認識できるわけである。

 ちなみに、ウィルシャーは10年の冬にボルトンへ移籍すると、同時期にクラブの監督に就任した現監督であるオーウェン・コイルのショートパスとハイプレスを主体とする近代的なフットボールを実践する上で重要な選手となり、このシーズン、ボルトンがプレミアリーグ残留と、それまでのチームカラーであったロングボールを放り込む無骨なスタイルから華麗なフットボールへの移行を同時に達成することに大きく貢献している。

 ウィルシャーはその後アーセナルに復帰すると、主力選手へと成長し、昨シーズンは大黒柱であったセスク・ファブレガスに勝るとも劣らない活躍を披露した。今シーズンは度重なるけがにより、これまでスタンド観戦を余儀なくされているが、ウィルシャーの不在はそのままアーセナルの苦戦に結びついており、リーグ5位という現状が逆説的にウィルシャーの存在の大きさを物語っている。このように、アーセナルからボルトンへのローン移籍は、サクセスストーリーのモデルケースとなっているのである。ウィルシャー本人は宮市の移籍に際し、彼の将来にとって“素晴らしい展開だ”と太鼓判を押している。経験者は語る、というやつだ。

ウィルシャー、スタリッジに続けるか

 このウィルシャーのサクセスストーリーを引き合いに出すことにより、アーセナルを率いるベンゲル監督の宮市へ寄せた期待の高さを推し量ることができる。聡明なる指揮官であり、育成にもいかんなく手腕を発揮するベンゲル監督の辞書に、二匹目のドジョウなどという浅はかな言葉は載っていないだろう。今回の移籍は、宮市を将来的なアーセナルの主力選手ともくろみ、すでにウィルシャーという成功例があり確実な成長が期待できるボルトンでの武者修行と目するのが自然だ。

 と、ここまではあえて日本人のおじさん的バイアスを掛けた見方。やはり、そういう見方をした方が、筆者を含め日本人的にはイングランドのフットボールが楽しくなる。宮市君、ボルトンでの修行は栄光への第一歩だ。筆者の辞書には、二匹目のドジョウという言葉はしっかりと刻まれているが、同時に二度あることは三度あるという言葉も掲載されている。ウィルシャー、スタリッジ(昨シーズン、ボルトンにローン移籍し、現在はチェルシーのスタメン)に続こうではないか。

 では、ここで冷静になって、もう少し客観的な目線で見てみよう。アーセナルはプレミアリーグ第23節終了時で4位チェルシーに5ポイント差の7位と、このまま行くと来季のチャンピオンズリーグ出場権獲得もままならない状況である。確実に勝ち点を積み重ねる必要がある中、宮市のような若手を積極的に起用するリスクを負えないのが現状だ。現在のベンゲル監督がショートスパンの利に重きを置いているのは、冬場の移籍市場が開くや否やアンリを期限付きで獲得した動きに端的に見て取れる。であれば、若手選手に関しては出場機会の見込めるクラブで経験値を先買いしようではないか、というのが今回の移籍の最大のモチベーションだろう。実際、アーセナルはこの冬、中盤のフリンポンもウォルバーハンプトンへ修行に出している。腕の確かな職人を雇いつつ、若い二代目は他店へ修行に出すおすし屋さんの手法に酷似しているが、どこの業界も腕一本が頼りの世界は、方法論が似てくるものである。

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著者プロフィール

1976年生まれ。東京都出身。雑文家。1990年代の多くを「サッカー不毛の地」米国で過ごすも、94年のワールドカップ・米国大会でサッカーと邂逅(かいこう)。以降、徹頭徹尾、視聴者・観戦者の立場を貫いてきたが、2008年ペン(キーボード)をとる。現在はJ SPORTSにプレミアリーグ関連のコラムを寄稿

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