価値ある選手権だからこそ考えたい2つの問題=選手を守るために何らかのアクションを
けが人が痛み止めを服用し強行出場を続ける現状
市立船橋の岩渕(青)は負傷しながらも強行出場を続けていた。メディカルチェックの導入も検討するべきではと大島氏は提案している 【鷹羽康博】
決勝終了後の監督会見において優勝校・市立船橋の朝岡隆蔵監督にそう前置きした上で、ひざの半月板を痛めながら出場を続けたFW岩渕諒を例にこういう質問を行った。
「今回の選手権でもけがを抱えながら、痛み止めを服用しながら強行出場する選手が多かった。そういう事例をなるべく減らしてもらいたいと思うのだが、一方で現場の監督、選手にそれを求めるのは酷だとも考えている。例えば、大会でしっかりとルールを作る、メディカルチェックを入れるということも考えていくべきかもしれない。現場の監督として、そこの判断は非常に迷うところが多かったと思うが?」
その質問に対する朝岡監督の返答は以下の通りだった。
「けがのことに関して言えば、指導方針としても本人がどう思うかですし、こちら側が絶対に出ろということは岩渕にも言っていません。出なきゃいけないんだ、という話もしていません。磐瀬(剛)についても同じです。どうしたいんだという話をした時に、どうしても出たいんだと。それをある程度コントロールするのが大人の責任だとは重々承知していますが、それを越えて彼らはここに小さいころから夢を持っていますし、そういう舞台です。
彼らは多分、出なかったら一生後悔するんです。それを引きずってサッカー人生を送るのであればここでしっかりと、どうせというのはなんですが(けがは)治るものなので。ここである程度犠牲を払いながらやっても、そのあと回復ができるという判断があった。岩渕の事例だけではないんですけども、サッカー人生を棒に振るようなけがであればそういうことはありませんが、彼にとってはここに立つことが何よりも今大事だったと。この後のサッカー人生を考えても大事だったということで本人の気持ちを尊重しました」
わたしが優勝の喜びに水を差すような質問をした理由は、朝岡監督や市立船橋の姿勢を問い正すためではなく、いまだに選手権という舞台で、けが人が痛み止めを服用しながら強行出場を続ける問題が医学的見地に立った判断ではなく、現場の指導者、選手レベルの判断に任されてしまっているからだ。個人的には事例として表に出してしまい申し訳ない気持ちも持っているのだが、優勝校として注目されている瞬間だからこそ意図的に会見の場で質問することで問題提起のきっかけを作りたかった。
メディカルチェックの導入を検討すべき
この問題について柔道整復師(国家認定資格)やイングランド・サッカー協会公認・メディカルライセンス(FA−TMI)を保有し、幅広く育成年代の現場に精通する大島一志氏に話を聞いた。大島氏は、「今に始まった問題ではない」としながら高校サッカー界の現状についてこう語る。
「けがをしている選手をどうしてもゲームに使いたいという時、3日くらい前から痛み止めの飲み薬を渡して飲ませたり、ゲーム直前に患部に注射を打ってしまうようなことは今でもあります。あと、痛みとは関係ないですが、ゲーム中によく足がつってしまうという選手には漢方薬の製剤があるので、そういうものを渡して飲ませたりしているケースもあると聞きます」
大島氏によれば痛み止めの服用自体は「ドーピングにあたらない」とのことだが、けが人の強行出場をこのまま現場の指導者や選手任せに放置していいはずもない。そこで大島氏が具体策として提案するのが大会としてのメディカルチェックの導入だ。
「現状では部活、チーム単位でトレーナーを置くなどの対策しか行われていません。高校野球だと大会前にメディカルチェックがありますが、サッカーでもそういうのがあればいいのではないかと思います。例えば、日本サッカー協会(JFA)が音頭をとれば、すぐに導入できると思いますし、JFAに関して言うと選手権は高体連の問題だという意識がかなり強いので、どちらかというと傍観しているようなところがあると思います」