価値ある選手権だからこそ考えたい2つの問題=選手を守るために何らかのアクションを

小澤一郎

大学進学後にサッカーを辞めるケースも

白崎(白)を擁しながら山梨学院大附は2回戦で敗退。吉永監督は高校サッカーのカレンダーが過密日程になっていることを危惧している 【鷹羽康博】

 一方、けが人の問題は10日間で6試合(※1回戦から決勝に進出する場合)を戦う必要がある選手権という大会のフォーマットにも関係している。さらに言うと、今季からプレミアやプリンスといったリーグ戦が12月まで入り込み、高校サッカーのカレンダー自体が超過密日程となっている現状もある。この問題について、山梨学院大附属の吉永一明監督はこのように語る。

「カレンダー的に言うと、どこかでオフがないと厳しいと思います。でないと本当に年中やっていることになります。毎日練習することが当たり前で、それが美しいことのように言われがちですが、わたしはそうじゃないと思います。本当にサッカーだけをやって3年間を終えました、というのもどうなのかなと。

 実際に2年前に日本一になったんですが、それじゃあその子たちが次でどうなっているのかというのは、これから出てくることだと思います。優勝したことで、やはり燃え尽きた感はありましたし、それが一番優勝した時に嫌だったことでしたね。『ここが終わりじゃない』と言いながらも、終わりのように追いつめてしまったり、本当にそういう雰囲気になってしまいます。そういったことをなくすためにも、ゆとりとかではなく、メリハリをつける必要性があるのかなと思います」

 事実、2年前の優勝チームの主力で大学進学後にバーンアウトし、サッカーを辞めてしまった選手もいるという。吉永監督は、「強くなればなるほど、自分たちの首を絞めるというか、スケジュールに追われてしまう」とした上で、「本当に1年を通して、サッカーに追われているような感覚になっていますし、どこかで本当に切り替えていかないと、サッカーばかというか、本当に偏った人間になる危険性をはらんでいます」と現在の高校サッカー界にはらむ問題点を指摘する。

人間的な成長が選手としての成長にもつながる

 そこで吉永監督が提案するのが夏の高校総体(インターハイ)の廃止とセットにしたシーズンオフの創出。選手権のフォーマットについても、初めからすべて一発勝負にするのではなく、グループリーグの後にトーナメントを戦うワールドカップ方式だ。吉永監督は、「そうすれば、選手権の重みが変わりますし、大会自体も本当の総決算とするのであれば、少し時間をかけていった方がより良いものが生まれると思います。そして、その分空いた夏をどう使うかというところに焦点が集まりますし、そうなってくるとかなり違ってくるのではないでしょうか」と語る。

 Jユースと高校の両方での指導経験があり、「もっと2種というくくりで物事を考えていくべき」と広い視点を持つ吉永監督は最後にこういう話をしてくれた。

「高校の指導者の皆さんが思っているのは『育てて勝つ』というところでもあると思います。一方で、それを目指して皆頑張っているけれども、育てるという点で、いちサッカー選手としてだけの何かを伸ばすということに行き詰まっている人が多いんじゃないかと思います。もっと人間的に成長させる機会、つまりいろいろなことをやらせたり、いろいろなことを考えさせたりする機会を持つことで、実はサッカーも伸びるんだよ、という考え方は絶対にあると思います」

 華やかで多くのスポットライトを浴びる選手権という大会はそれだけが一人歩きしがちなのだが、あくまで高校生による「いちサッカー大会」である。まずはその前提、認識に立ち返り、価値ある選手権だからこそ、その価値を維持していくために今回取り上げた2つの問題は早急に対策を講じる必要があるのではないだろうか。それは最終的に現場の選手と指導者を守り、彼らにさらなるレベルアップをしてもらうため。これまで現場レベルの犠牲によって感動を得ていた周囲のわれわれこそが今、何かを考え、何かアクションを起こす必要性に迫られている。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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