ネイマールのサントス残留とW杯の関係=クラブW杯でブラジルとアルゼンチンのエース対決へ

14年までのサントス残留を決めたネイマール

サントスとブラジル代表の中心選手となったネイマール(右)は国内で絶大な人気を誇る 【写真:AP/アフロ】

 サントスとブラジルサッカー界のシンボルであるペレは先日、クラブワールドカップ(W杯)に向けて準備を進めているサントスのスター、ネイマールが世界最高の選手であると発言した。彼にとってネイマールは、クラブW杯決勝での対戦が期待されるバルセロナのリオネル・メッシをも上回る選手だという。
 レアル・マドリーとバルセロナが獲得合戦を繰り広げたとはいえ、あらゆるメディアやサッカー関係者に世界一の選手と言われているメッシと比べれば、ネイマールの現在の知名度はそこまで高くはない。

 だが、若く素晴らしいテクニックを持つネイマールは、チームにタメとリズムを与えるパウロ・エンリケ・ガンソとともに、新世代を代表する選手としてサントスの顔となった。2011年のコパ・リベルタドーレスでも、クラブに48年ぶりの国際タイトルをもたらした。
 コパ・リベルタドーレスの最優秀選手に選ばれたネイマールは、数年以内にメッシと世界一の座を競う選手になるだろう。ヨーロッパのビッグクラブでプレーするようになれば、それも時間の問題だと多くの人々が考えている。

 にもかかわらず、母国で行われる14年W杯後までサントスを出ていかないと決めた裏には、何か特別な理由があるのではないか。彼が同世代で最も重要な存在であり、14年W杯、その1年前にはコンフェデレーションズカップを開催国として迎えるブラジル代表にとって欠かせない選手であることを念頭に置くと、そんな考えが浮かんでくる。

CBFとナイキ社の思惑

 ウルグアイとの決勝で信じられない敗北を喫した50年以来となる大イベントを2年半後に控える現在、ブラジル代表の主力選手の多くはヨーロッパのクラブに所属しており、アルゼンチン代表におけるメッシと同様に母国のファンから遠い存在となっている(少なくともブラジルの選手たちは母国のクラブでプレーした経験があるので、そこまで大げさではないかもしれないが)。

 W杯までにブラジル国内で行われる代表戦がほとんどないことも無視できない点だ。FIFA(国際サッカー連盟)が定める国際Aマッチデーに組まれた親善試合のほとんどは、興行収入を目的に国外で行われるものばかり。しかも、ブラジルは開催国のためW杯予選を戦う必要がなく、国内のファンは代表チームのプレーを見る機会がほとんどない。これは代表のスポンサーにとって憂慮すべきことである。

 ゆえにブラジルサッカー協会(CBF)やブラジル代表のユニホームサプライヤーであるナイキ社は、自国開催のW杯に対する国民の関心を高めるべく、絶大な人気を誇るネイマールが国内リーグでプレーし続けるよう手を尽くしている。
 バルセロナとレアル・マドリーの双方に好意的な態度を示していたネイマールが、結局どちらのクラブにも移籍せず、14年までサントスとの契約を延長した裏にはそのような背景があるとみられる。

 こうした事情は、レアル・マドリーとの移籍交渉が一変したこととも関係している。1、2年後の移籍に向けたレアル・マドリーとの交渉は、カタルーニャのスポーツ紙も認めるほど決定的な合意に達したと言われていた。にもかかわらず、突然白紙になったことで、レアルのジョゼ・モリーニョ監督は公に不快感を表明した。

14年W杯後にバルセロナへ?

 14年W杯でタイトルを狙うブラジル代表のスターに祭り上げられたことで、ネイマールは母国のファンとスポンサーの近くでプレーし続けることになった。ナイキ・ブラジル支社で働いた経験を持つバルセロナのサンドロ・ロセイ会長はそうした背景をよく理解し、W杯後まで待つことを条件にネイマールをバルセロナに連れていく約束をサントスと交わした可能性がある。

 03年にジョアン・ラポルタがバルセロナの会長となって以降、ロナウジーニョ、エジミウソン、デコ、ベレッチといったブラジル人選手が続々と加入したのは偶然ではない。彼らの獲得に大きな役割を果たしたのは、当時副会長を務めていたロセイが持つナイキ・ブラジル支社との太いパイプだった。クラブの全権を握っていたわけではない当時の彼が、あれだけのスター選手を連れてくることができたのなら、会長となった今の彼がネイマールを獲得できないと考えるのは不自然だろう。

 クラブW杯が間近に迫った今こそ、このような話題に適した時はない。バルセロナはネイマールが日本で対戦するであろう最大のライバルであり、現在サッカー界最大のスターであるバルセロナのメッシは、14年も確実に主役の1人として取り上げられるはずだ。

 クラブW杯は、将来訪れるビッグゲームへ向けた最初の前哨戦となる。クリスティアーノ・ロナウドの不在を別にし、世界中が注目する舞台で実現するであろうブラジルとアルゼンチンのエース対決は、あらゆるサッカーファンにとって魅力的すぎる一戦となるに違いない。

<了>

(翻訳:工藤拓)
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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