日本シリーズの再現!? ソフトバンクと戦う韓国・サムスンは「中日のようなチーム」=2011年アジアシリーズ見どころ

室井昌也

呉昇桓ら、リーグトップの投手力を誇るサムスン

WBC出場経験のあるストッパー・呉昇桓に注目 【ストライク・ゾーン】

 2対0、2対1、1対2、8対4、1対0。日本シリーズ同様、ロースコアが並んだ今年の韓国シリーズ。この戦いを4勝1敗で制しアジアシリーズ進出を決めたのは、5年ぶり3度目の出場となるサムスンライオンズだ。

 今年のサムスンをひと言で説明すると、「中日のようなチーム」。勝ちパターンは先行逃げ切りで、7回までリードした試合での勝率は9割8分5厘。逆転負けを喫したのはわずか1回しかない(65勝1敗1分け)。チーム打率は8球団中5位の2割5分9厘だが、チーム防御率は3.35でリーグトップを誇る投手力のチームだ。今季の首位打者・李大浩(ロッテ)が打率3割5分7厘を残し、3割バッターが14人いる韓国で、この防御率は立派な数字と言える。

 そのサムスン投手陣で大きな役割を果たしているのがリリーフ陣だ。リリーフ陣の成績は防御率2.44、48セーブ、74ホールドで他球団を圧倒している。なかでもチームの絶対的存在が、47セーブ(リーグ1位)を挙げた“石仏守護神”呉昇桓だ。スピンの効いたストレートで空振りを奪い、57イニングで奪った三振は76個を数える。その他の球種はスライダーとたまに投げるツーシームとチェンジアップだけだが、多くの打者はストレートが来ると分かっていても詰まらされ、ポップフライを打ち上げてしまう。今季は54試合に登板し、防御率0.63。救援失敗は1度しかない。ルーキーイヤーから抑えを務める呉昇桓は、今年8月、プロ7年目334試合目にして、球界最速の通算200セーブを達成。韓国を代表するストッパーだ。

 韓国シリーズ第4戦の試合前。呉昇桓をはじめとするサムスン投手陣と雑談する機会があった。話題の中心はその日から始まる、日本のクライマックスシリーズについて。彼らの多くが、日本の投手について話すのに対し、呉昇桓が筆者に尋ねてきたのは、「最近の多村(仁志=ソフトバンク)はどうですか?」だった。
 呉昇桓と多村は2006年のWBC2次リーグで対戦がある。2対1、韓国リードで迎えた9回裏2死1塁の場面。呉昇桓の多村への初球はレフトポール際の大飛球となった。あわやサヨナラという当たりだったが、打球はわずかに左に切れファウル。その後、カウント1ボール2ストライクとなり、最後は呉昇桓のストレートに多村は空振り三振に倒れる。韓国が6戦全勝で準決勝に駒を進めた瞬間だった。呉昇桓はこの日以来の多村との真剣勝負を楽しみにしていた。

元中日の落合コーチが投手陣を操る

 サムスンの生命線となる投手陣。彼らを操るのが落合英二投手コーチ(元中日)だ。前任の宣銅烈監督(元中日/現・起亜監督)の時にサムスン入りし、今季が2年目。「ウチは日本に劣らないくらい、良いピッチャーがそろっています。だから誰がコーチをやっても良い成績を残しますよ」と落合コーチは謙遜するが、落合コーチ就任後、チーム防御率は1.65も下がった。落合コーチは今季から投手起用の全権を任されており、その手腕への評価は高い。
 今大会には2けた勝利を挙げた、先発の尹盛桓(14勝)、車雨燦(10勝)をそれぞれ肩の違和感で欠き、セットアッパーの安志晩(11勝)も基礎軍事訓練で出場しない。加えてマティス、ジャマーノ(元ソフトバンク)の両外国人が帰国と、戦力ダウンは必至だ。この状況で、張ウォン三、鄭寅ウク、ペ英洙の3先発、そして得意の継投で、最後を呉昇桓に託せるかがポイントとなる。

 一方の打線だが、ホームラン(30本)、打点(118点)の2冠に輝いた崔炯宇を除くと、得点力は高くない。崔炯宇自身も「短期決戦で長打を打つのは楽じゃない」と話し、わずかなチャンスで打線がつながらないと、なかなか得点を挙げられないだろう。味方がリードした場面で一発を放つと、ベンチ前で落合コーチとハイファイブをかわす崔炯宇。その姿は台湾でも見られるか。

 就任1年目でチームを優勝に導いた柳仲逸監督率いるサムスン。シーズン同様にリードを守って終盤に持ち込むことが、アジアの頂点をつかむための条件だ。

<了>
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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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