アルゼンチンに広がる不安とウルグアイが示す模範

今後も根本的な変化は期待できない

ウルグアイはスアレスの4ゴールでチリに圧勝し、南米予選でも首位を走る。アルゼンチンはウルグアイの成功を見習うべきだろう 【写真:ロイター/アフロ】

 現在のアルゼンチンがコパ・アメリカでの対戦時からほとんど変わっていないと見たボリビアのグスタボ・キンテロス監督(皮肉にも彼はアルゼンチン人だ)は、引き分けに持ち込んだ(むしろ勝利すら手にしかけた)4カ月前の一戦と同じ守備組織を用い、今回の試合に臨んだ。そしてマルティン・デミチェリスのミスを突いたマルティンスの先制点により、またしてもあと一歩で勝利というところまでいった。

 自国開催のコパ・アメリカ敗退に伴いセルヒオ・バティスタ前監督が解任された後、あらゆる人々がカルロス・ビアンチの招へいを求めたにもかかわらず、ビアンチを嫌うアルゼンチンサッカー協会(AFA)のフリオ・グロンドーナ会長はアレハンドロ・サベーラを新監督に任命した。

 だが、その後も状況は何一つ変わっていない。最近ではフアン・セバスティアン・ベロンが現役を引退する1月から代表のチームマネジャーに就任するという話が浮上している。だが、選手たちのプレーから1つの信念やプロジェクト、一貫性あるトレーニングといったものが見て取れない現状では、今後も根本的な変化は期待できないだろう。

隣国ウルグアイの成功を模範にすべき

 ウルグアイの首都モンテビデオは、ブエノスアイレスからわずか3時間でたどり着ける距離にある。その地で南米王者のウルグアイ代表は、リバプール所属の偉大なストライカー、ルイス・スアレスの4ゴールによりチリ代表に4−0と圧勝し、南米予選の首位に立った。それはもちろん、偶然の産物ではない。

 ウルグアイサッカー協会(AUF)はまず、素晴らしいキャリアと一貫性を持つ同国最高の指導者オスカル・タバレスを代表監督に選んだ。その結果、2010年W杯・南アフリカ大会では素晴らしい戦いの末に4位となり、今年のコパ・アメリカを制した。今やウルグアイはブラジルを含めた南米大陸における最強のチームであり、2年半後に行われるW杯に向けても優勝候補と見られる存在になった。

 アルゼンチンサッカー界は隣国の成功を模範とするべきだ。1つの哲学を元にプロジェクトを立ち上げ、一貫性を持ってそのプロジェクトを継続すること。確固たる指針を持ち、長期的な視野に立ってチーム作りが行えるよう監督に時間を与えること。FIFAの国際マッチデーに空きが生じた際には商業目的で弱小国への興行遠征を行うのではなく、チームの成長に役立つ対戦相手との試合を組むこと。

 アルゼンチンと同じく、ウルグアイも代表選手のほぼ全員がヨーロッパでプレーしている。チーム作りの時間はほとんどなく、代表戦では気候や時差など多くの障害を抱えながら戦っている。しかも人口約4000万人のアルゼンチンに対し、わずか約300万人とウルグアイは人材的にも限られている。にもかかわらず、ウルグアイは結果を出し続けている。それも周囲を納得させるプレー内容を伴ってである。

 アルゼンチンが習うべき模範はあまりにも近くにありすぎるのかもしれない。

<了>

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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