FIFAとブラジル政府の対立に潜む不安=ワールドカップは無事に開催されるのか

ブラジルがFIFAを打ち負かすことはできない

下院議員に当選したロマーリオも、FIFAの強硬な姿勢に異議を唱える 【写真:ロイター/アフロ】

 テシェイラとレベロの関係は以前と比べて改善されたと言われているが(実際、レベロは選挙運動中にCBFのスポンサー企業から援助を受けていた)、少なくともレベロは既存の法律は順守すべきだと主張している。ブラジルではスタジアム内でのアルコールの販売が禁じられている。また学生や高齢者にはチケットを半額で販売する義務があるが、それがW杯でも適用されればFIFAの収入は大きく減少することになる。

 これらの法律を受け入れ難いものと考えているバルクは、『オ・エスタド・デ・サンパウロ』紙のインタビューに対して「ブラジルがFIFAを打ち負かすことはできない」と珍しく厳しい発言を行った。彼は2018年ロシア大会、そして飲酒がイスラム法で禁じられている2022年カタール大会ですらスタジアムでのアルコール販売に対する反対は存在しないと指摘し、「われわれはブラジルW杯が悪夢ではなく、夢の大会になることを保障しなければならない」と語っている。

 こうしたFIFAの強硬な姿勢に対し、ブラジル社会党から下院議員に当選した元スター選手のロマーリオは「FIFAは独自の国家をブラジルに押しつけようとしている」と訴えている。だが「FIFAはブラジルを支配したいわけではない」というバルクの主張には確かな後ろ盾がある。07年に行われた予備交渉にて、ルラ前大統領はW杯の会場におけるアルコールの販売を許可することを約束し、サインを交わしているのだ。ブラジルではゴイアス州(6月に行われたブラジル対オランダの親善試合はここで開催され、アルコールも販売された)など一部の地域を除いて、スタジアム内でのアルコール販売が禁じられているにもかかわらずである。

アルコール販売やチケット価格など問題は山積み

 ルセフ大統領とレベロ大臣が法律の改正を拒む限り、スタジアムにおけるアルコール販売を実現するのは難しい。だが、圧力はあらゆる方面からかかっている。FIFAと契約を結んでいるビールメーカーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ社は、ブラジルサッカー界で最も大きな力を持つサンパウロの4大クラブをスポンサードし、ブラジル代表のマノ・メネーゼス監督をカイザーのCMに起用している。

 また『フォラ・デ・サンパウロ』紙によれば、W杯のVIP用パックチケットには「エクセレントなドリンクをそろえる」バーのサービス料が含まれており、写真にはビールやワイン、シャンパンなどが写っている。「これらはイメージ写真であり、実際のスタジアム内のものではありません」という注釈はあるものの、顧客から訴えを受けた場合に不利な証拠となることは間違いなさそうだ。

 チケットの価格は20〜30ドル(1550円〜2330円)に設定しなければならないという合意がW杯の運営委員会とFIFAの間で交わされているが、FIFAは決勝トーナメント1回戦以降の試合については価格を上げることを希望している。一方でブラジル政府は、65歳以上の高齢者と学生に対しては半額でチケットを販売するよう要求している。合計300万枚のうち、一般の市場に出回るチケットは100万枚とのことだ。

 今のところこれらの相違に対する解決策は見いだされていない。FIFAが今までになく強硬な姿勢を示しているとはいえ、今の時点で開催地が変更される可能性はないだろう。いずれにせよ、これからの数カ月が問題解決の鍵となるはずだ。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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