岡崎慎司が持つ“成り代われる才能”=目指すは世界ナンバーワンのストライカー
ポジションの枠にとらわれない
自ら得点もしながら、味方をも輝かせる。岡崎(右)は日本代表の攻撃を活性化させる重要なピースとなっている 【Getty Images】
タジキスタン戦の前半19分に記録した得点は、まさに岡崎の真骨頂だった。
右サイドで相手から積極的なディフェンスでボールを奪い取り、一度ボールをはたいた後、すかさずダッシュでゴール前に走り込んでスルーパスを呼び込む。そして中村憲剛から出てきたスルーパスを完ぺきにコントロールすると、二人がかりのタックルも気にせずに右足を振り抜き、ゴールネットを揺らしている。
その後も、岡崎はタジキスタンDFをあざ笑うかのように躍動した。
後半29分には、ファーポストに走り込み得意のヘディングでゴールラッシュを締めくくる得点を記録。中村からのクロスはファーポストのフリースペースに出されたボールで、その空間を岡崎も認識していたのだろうが、それは考えて導き出したプレーではない。察知していた、感じていた、という表現の方が正しい。あるいは、予知していたとも言えるか。
何も考えずゴールに向かって突っ込む
一世を風靡(ふうび)したオシム語録から、「考えるサッカー」が一般に広く知られるようになった。まさにそれは正論だ。しかし、攻撃の選手たちは感覚でプレーする才能が求められるのも事実である。考えることでたとえわずかでも後れを取ってしまう。なぜなら守備者たちは考え、予測し、しかも死に物狂いで守ってくるのだ。
「ピッチの上では考えてしまうと、一歩が遅れてしまう」
岡崎はそう証言していたことがある。
「だから自分の場合、何も考えずにボールが来ることを信じてがむしゃらに動いていますね。おれは下手くそだから、とにかくゴールに向かって突っ込もうと。それで体のどこにボールが当たってもいいから、ゴールネットを揺らす。それが自分の仕事なんです」
タジキスタン戦、ハーフナーの高さや香川の復活弾などが注目されたが、マン・オブ・ザ・マッチにふさわしいのは岡崎だろう。
彼のプレーは味方をも輝かせる
例えばタジキスタン戦の先制点。岡崎が右サイドからゴール前中央にポジションを取ることでサイドにスペースを作っている。空いたスペースにトップ下の中村を呼び込み、中村からのパスをフリーで受けた右サイドバックの駒野が、落ち着いてハーフナー・マイクの頭に合わせた。
岡崎はこうした地味なポジションチェンジを我慢強く繰り返すことができる。
無心。その境地にある男の戦いは、これからが本番である。とてつもないことをやってのけそうな気配を、彼は持っている。なにしろ、何者にでも成り代われるのだ。
「おれにはめちゃ無謀な目標があるんですよ。世界ナンバーワンのストライカーになりたいんです」
2010年のW杯・南アフリカ大会前、岡崎は邪気のない笑顔を浮かべていた。
<了>
「ロスタイムに奇跡を」日本代表選手たちの真実(角川文庫)
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彼は胸の内を淡々と打ち明けた――。
本田圭佑、長谷部誠、岡崎慎司、大久保嘉人らは、いかに自分と向き合い、果敢に決断し、勇躍することができたのか。そして次なる舞台に向け、何を心に誓うのか。世界で勝負を続けてきたサッカー日本代表8人の素顔と本音に迫った。高ぶる息吹が伝わってくる、渾身(こんしん)の密着ドキュメント。