進化し続けるバルセロナに死角はなし=セスク加入がもたらすさまざまな恩恵

豊福晋

顔ぶれは同じだが、サッカーには変化が

2年前にクラブW杯を制したバルセロナ。当時とメンバーはそれほど変わらないが、サッカーは進化している 【写真:徳原隆元/アフロ】

 2010−11シーズンのチャンピオンズリーグ決勝でマンチェスター・ユナイテッドを破り欧州王者となったバルセロナは、12月に日本で世界一を懸けてFIFAクラブワールドカップ(W杯)を戦う。2年前、ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるバルサは、UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビで行われた同大会で、南米王者のエストゥディアンテス(アルゼンチン)を下し、世界一に輝いている。優勝後、ピッチの上で顔を手で覆い、静かに涙を流すグアルディオラの姿は、今でもバルサファンの脳裏に焼き付いており、そのシーンは現在も地元紙やテレビでも頻繁に目にする。

 それから2年が経った。バルサのベンチには変わらずグアルディオラの姿があり、ピッチの上の選手も、その多くが2年前と同じ顔ぶれである。しかし、ピッチの上のサッカーには確かな変化が見て取れる。2009年のクラブW杯決勝のメンバーを見てみよう。

GK:ビクトル・バルデス
DF:ダニエウ・アウベス、ピケ、プジョル、アビダル
MF:ブスケツ、シャビ、ケイタ
FW:メッシ、イブラヒモビッチ、アンリ

 今季のメンバーと大きく異なるのが、何よりも前線の構成だ。イブラヒモビッチとアンリはチームを去り、現在、彼らの代わりにはビジャとサンチェスがいる。2年前は右サイドかトップ下でのプレーが多かったメッシは、今ではずっとセンターFWのポジションでプレーしてきたかのような風格を見せている。プジョルとピケは負傷中だが、クラブW杯には間に合う。2年前は負傷していたイニエスタは今回は先発で出場するはずだ。

チーム全体の得点力は上がっている

 プレー面での最も大きな変更は、前線からのプレッシングがさらに徹底された点だろう。そこにあるのは献身である。左サイドに張り出すビジャは、非ポゼッション時は相手サイドバックを追いかけ、反対サイドのペドロも守備の意識の高さはバルサB時代からグアルディオラに徹底されている。

 今季加入したサンチェスも、攻撃面だけでなく守備の献身を評価されて加入したほど、指揮官の「チーム全体で高い位置から素早くボールを奪い返す」という意識は強い。2年前のアンリもそんな姿勢を見せてはいたが、今季の3トップのそれは、当時を大きく上回る。
 グアルディオラが目指す、高い位置でボールを奪い返し、再びポゼッションに移るサッカー。そのためにチームは少しずつ形を変え、新たな選手を加え、変化をつけながら、この2年間進化し続けてきた。

 一方、攻撃面においては個々の技術を生かし、高いポゼッションを保ちながら攻めていくという姿勢は変わらない。前線の重さという意味では、イブラヒモビッチが抜けたことでマイナスになるかもしれないが、メッシをより前で、自由にプレーさせることで、チーム全体の得点力は上がっている。
 イブラヒモビッチという強烈な個性は、グアルディオラが目指すスタイルの中で、やや異質な輝きを放っていた。しかし現在のバルサのサッカーはより全体的で、統一された感がある。

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著者プロフィール

ライター、翻訳家。1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経てライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み現在はバルセロナ在住。5カ国語を駆使しサッカーとその周辺を取材し、『スポーツグラフィック・ナンバー』(文藝春秋)など多数の媒体に執筆、翻訳。近著『欧州 旅するフットボール』(双葉社)がサッカー本大賞2020を受賞。

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