北朝鮮代表、日本戦に賭けるさまざまな思い=世界を知った選手たちにもはや弱小の面影はない
日本は痛い目に遭う可能性も
ブラジルのルシオ(右)と競り合うチョン・テセ。W杯やアジアカップといった国際舞台を経験したことで、北朝鮮代表は大きく成長した 【Getty Images】
日本でもよく知られているチョン・テセやアン・ヨンハ、リャン・ヨンギらの能力の高さはすでに実証済みだが、そこにだけ目を向けていると日本は痛い目に遭うかもしれない。
まずは今季、スイスのバーゼルと5年契約を結んだFWパク・クァンリョン。186センチの長身から繰り出すヘッドが武器で、ポスト役で前線の起点となる。初めて一緒に練習したチョン・テセも彼のプレーに太鼓判を押す。
「おれよりも体格が大きいのに、足下のプレーもしっかりしている。まだ若くてムラがあるけれど、経験を積めば必ず世界に通用するプレーヤーになりますよ」
そしてもう1人の注目プレーヤーがFWのチョン・イルグァンだ。彼は昨年のU−19アジア選手権のオーストラリアとの決勝戦でハットトリックを記録して優勝に貢献。同大会でMVPを獲得し、世界からも注目を浴びている逸材だ。まだ国際経験が少ないため、スタメンで出場するかは現時点で分からないが、いずれにせよ、勢いのある若手は北朝鮮にとって心強い戦力である。また、スイスのFCビルでプレーする右サイドバックのチャ・ジョンヒョクも、海外での経験を武器にオーバーラップをどんどん仕掛けてくるだろう。
そんな選手構成もさることながら、これまで守備的だった戦術も大きく変わるようだ。現時点では4−2−3−1が濃厚。GKにはW杯を経験したリ・ミョングク。DFは右からチャ・ジョンヒョク、パク・ナムチョル(朴男哲)、リ・グァンチョン、チョン・グァンイクで、W杯とアジアカップを経験したメンバーにほぼ変わりはない。
ボランチの左には精神的支柱のアン・ヨンハ、右にはユース時代から代表生え抜きのリ・チョルミョン、新鋭のパク・ソンチョルが入ると予想される。その前の右サイドには前述したパク・クァンリョンかチョン・イルグァン、中央にはパク・ナムチョル(朴南哲)、左にはリャン・ヨンギが入り、そして1トップにチョン・テセだ。
国際舞台を経験し、大きく様変わりしたチーム
チョン・テセは言う。
「アジアカップである程度攻撃的なサッカーを経験し、若手が育ってきているという印象はあります。ただ、極度な世代交代には不安があるのは確かです。攻撃サッカーは選手の質が問われますし、質が伴わないと大量失点は避けられないと思います。今回の試合でその答えが出ると思いますが、僕が見た限りでは若手のポテンシャルはとても高いですよ」
そして、新たに監督の構想の中に組み込まれたリャン・ヨンギもまた、「若手とのチームワークにそこまで心配はない」と語る。彼は南アフリカW杯には帯同したものの、最終的にはメンバー入りできなかった。しかし、Jリーグでの活躍が認められ、今では代表での信頼を獲得している。
「W杯では本当に悔しい思いしかありませんでしたが、あきらめずにやってきた結果、ここまでたどり着きました。こうして日本と戦えるのは楽しみで仕方ありません。いま日本は勢いのあるチームなので、少しも気は抜けません。チャンスを演出するだけでなく、ゴールも狙っていきたい」
南アフリカW杯、アジアカップを経て、大きく変わり始めた北朝鮮代表。監督、選手たちそれぞれが、この日本戦に賭けている。特にチョン・テセは、今回の試合をしっかりと未来へ届けたいと思っている。
「自分の生い立ちと同じように、日本には多くの在日同胞の方々が住んでいます。今回はたくさんの方が応援に来ると思いますが、昔、僕が見たあの感動を今回はみんなに“勝利”という形で脳裏に焼き付けたいです。そして、僕が夢見たように、子供たちには代表を夢見る選手になってほしい」
世界のサッカーを知るかの国に、もはや弱小国の面影はない――。さまざまな思いを胸に北朝鮮代表チームがいよいよ決戦の舞台に立つ。
<了>