ウルグアイ、南米を制した偉大なチームの可能性

10人でアルゼンチンの猛攻を凌ぐ

大会史上最多となる15回目の優勝を果たしたウルグアイ。今後も成長し続ける可能性を秘めている 【写真:ロイター/アフロ】

 7月24日(現地時間)にブエノスアイレスのエスタディオ・モヌメンタルで行われたコパ・アメリカ(南米選手権)決勝で、ウルグアイはパラグアイを3−0で下して史上最多となる15回目の栄冠を手にした。だが、この勝利はオスカル・タバレス監督が就任した5年前に始まり、この偉大なチームが完成するまでの長いプロセスによって成し遂げられたものだ。

 開幕前の時点でウルグアイは優勝候補の筆頭とは見られていなかった。自国開催のアドバンテージと世界最高の選手リオネル・メッシを擁するアルゼンチンが絶対的に有利と見られていたからだ。だが、南米サッカーを間近で追ってきた者ならば、ウルグアイの成功が偶然ではないと確信を持って言うことができるだろう。

 グループリーグの組み合わせに恵まれたアルゼンチンとは対照的に、ウルグアイは成長著しいチリ、今大会のサプライズとなったペルー、開幕直前に主力メンバーが抜けて弱体化したが地力のあるメキシコと同組の厳しいグループを勝ち抜かなければならなかった。そのグループを2位で通過した結果、準々決勝ではそのアルゼンチンと対戦することになる。

 アルゼンチン戦は今大会の鍵となる一戦だった。いつこのようなビッグゲームを迎えても構わないようタバレスが準備を整えてきたとはいえ、準々決勝の段階で伝統のラプラタ・ダービーに臨むのはウルグアイにとって時期尚早である感があった。一方のアルゼンチンは、予期せぬ序盤戦のつまずきで受けたショックから精神的に立ち直ったばかりで、「ここからが新たなコパだ」と口をそろえて挑んできた。

 比較的早い段階で同点に追いつかれたとはいえ、ディエゴ・ペレスが開始早々に決めた先制点はホスト国に焦りをもたらした。だが、何より前半終了間際に生じたペレスの退場によって40分以上も数的不利の状況を強いられながら、相手の猛攻を耐え凌ぐことができたのはウルグアイにとって大きかった。
 ハーフタイムにタバレスはその豊富な経験を生かし、10人となった選手たちの闘争心を鼓舞してピッチへと送り出した。GKフェルナンド・ムスレラの好守と偉大なセンターバックであるディエゴ・ルガーノを中心としたセレステ(ウルグアイ代表の愛称)の最終ラインは鉄壁で、攻撃時にはアシスト役に徹したディエゴ・フォルランと最前線に位置するルイス・スアレスがしっかりとMFのフォローを受けていた。

成功の要因はプレースタイルの統一

 30分間の延長戦を守り抜いた末、PK戦でアルゼンチンを下したウルグアイは、この時点でようやく正当な優勝候補とみなされるようになった。続く準決勝でペルーを破り、決勝でパラグアイに完勝したことで、彼らはウルグアイ代表と同国のサッカー界全体が20年も続いた暗黒の時代を経て黄金期を迎えたことを証明したのだった。

 U−17代表がメキシコで行われたU−17ワールドカップ(W杯)決勝に勝ち進んだこと。U−20代表が南米予選を勝ち抜いてわずか2枠のロンドン五輪出場権を獲得したこと。フル代表が昨年のW杯・南アフリカ大会で南米出場国の最高成績となる4位に入ったこと(準決勝の終盤はオランダを圧倒していたため、決勝進出にもあと一歩と迫っていた)。そして、ウルグアイ勢の目立った活躍がなかったここ20年間の歴史に終止符を打ち、ペニャロールがコパ・リベルタドーレスの決勝に勝ち進んだこと。これらすべての成功は、1つとして偶然に生じたわけではない。

 成功の要因としてはまず、代表の各カテゴリーのチームがプレースタイルを統一するという首尾一貫したプロジェクトに、ウルグアイサッカー協会がようやく取り組み始めたことが挙げられる。また選手たちがスターを気取らず、謙虚に親しみを込めてファンと接するようになったことで、ファンは選手たちを、選手は代表チームを自身のアイディンティティーと感じるようになった。コパ・アメリカ優勝が決まった直後、祖父と父が共に同大会で優勝していることをプレッシャーに感じていたことを明かしたフォルランの感極まった様子はその一例だ。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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