“異色のクローザー”西武・牧田は成功するか!?=独自の投手哲学「打者をもてあそびたい」

中島大輔

渡辺監督の決断「やられたらしょうがないと、みんなが納得する」

度胸の良さが光る牧田。地上すれすれのところから浮き上がるような球を投げ込む 【写真は共同】

 今季、日本通運からドラフト2位でプロ入りし、開幕から先発ローテーションの座を勝ち取った牧田は、交流戦最後の6月19日時点で防御率2.85と安定したピッチングを続けた。地上すれすれからストレートを投げ込み、浮き上がるような軌道で打者を詰まらせる。90キロ台のカーブや左打者の外角に沈むシンカーでタイミングを外し、凡打の山を築く。ランナーを出せば、球界屈指と評価されるクイックスピードで走者を塁上にくぎ付けにする。

 しかし、投球内容の割に、交流戦終了時まで2勝4敗と勝ち星を伸ばせなかった。打線の援護に恵まれなかったのは否めないが、試合終盤になるとボールのキレが落ち、痛打される場面も少なくなかった。
 そんな折、昨季最多セーブを獲得したシコースキーが右ひじの手術で長期離脱、代役を任された岡本篤志の不振というチーム事情で、渡辺久信監督は牧田を抑えに抜てきした。指揮官の決断には、こんな理由があった。
「このピッチャーでやられたらしょうがないと、みんなが納得するのが抑え。うちのピッチングスタッフでそれをできるのは牧田だから」

 技術面以外で、クローザーに求められるのが度胸の良さだ。この点で牧田は適している。5月6日の楽天戦で大ベテランの山崎武司に対し、走者なしからクイックを使ったことで激怒されたが、ルーキーは動じる素振りを見せなかった。
 その裏には牧田の“強心臓”ぶりと、独自の投手哲学がある。シーズン開幕前の3月、牧田は理想の投手像についてこう話している。
「抑えようというより、バッターをもてあそんでやろうと考えています。緩急で分からなくさせるような、嫌なピッチャーを目標にしています」

好スタートも慢心なし

 もうひとつ、牧田にはプロの世界で成功するための心構えがある。先日、ある企画でロッテの高橋慶彦2軍監督に話を聞く機会があった。現役時代に広島で活躍した高橋は日本記録の33試合連続安打、1979年に日本シリーズMVPを獲得するなど名遊撃手として活躍し、指導者としては西岡剛や今江敏晃を育て、昨年は2軍で日本一を達成した人物だ。
 そんな高橋が興味深い話をしてくれた。
「こういう世界は自信家より、臆病者の方が成功すると思う。臆病者って、毎日怖いでしょ? 僕もそうだったけど、プロに入って1年でクビになると思った。どうせクビになるんだったら、毎日精一杯やろうと思ったよね」

 臆病者は失敗が怖いから、日々の練習を重ねる。高橋はクビになる恐怖感を抱きながら練習を積み、1番打者として広島を3度の日本一に導いた。
 牧田も自信家ではなく、臆病者タイプだ。初セーブを挙げた楽天戦後、自らを戒めるように話した。
「今日はランナーが出なかったけど、自分の失点パターンはランナーを出してからです。今日は抑えられたけど、次は分かりません。自分のピッチングで頑張っていきたいです」

 6月29日のオリックス戦では、3点リードの最終回にマウンドへ。先頭打者のバルディリスに死球を与え、その後2死一、三塁のピンチを迎えたが、無失点で切り抜けふたつ目のセーブを記録した。
「これからいろんなことがあると思う。ルーキーだし、勉強しながらやっていけばいい」
 渡辺監督が6月26日の楽天戦後に言ったように、クローザー人生には山もあり、谷もあるだろう。ただ、守護神としての資質があり、野球人として成功する心構えを持つ牧田なら、西武に新たな勝ちパターンを築いてくれるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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