ジョコビッチ、マレー、世代交代なるか!?=ウィンブルドンを盛り上げる新王者候補

内田暁

地元、マレーの強気な発言

地元・マレーは「大会の事前準備は、過去にないほど良いものだ」と強気な発言 【(c)Getty Images】

「普通、サッカーをはじめ多くのスポーツでは、地元でプレーするのはアドバンテージだと言われる。それなのにテニスに限っては、みんな“プレッシャー”だと言ってくるんだね」

 知性に富んだシニカルな物言いを好むマレーは、地元で戦うプレッシャーについて聞かれると、そのように切り返した。
 だが、いくらマレーが否定したところで、彼が常にメディアや国民たちからの過剰なまでの期待を背負う宿命にあることは、疑いの余地がない。

 彼は、テニス界で最も古い歴史を誇り、“テニスの聖地”と呼ばれる大会開催国の出身者だ。それはテニス伝統の地を自負しながらも、75年の長きに渡りグランドスラム優勝者から見放されている国でもある。昨年の全豪オープン決勝でマレーと戦ったフェデラーは、「アンディはかわいそうだよ。彼の母国は随分と長いこと……、15万年だっけ? それくらいグランドスラム優勝者を出してないから、常にプレッシャーにさらされている」とマレーの状況を手厳しいジョークにし、そして敗れたマレーは2万以上の観衆が見守るなか、敗北を国民に詫びつつ涙を流したのだった。

 だがそのマレーは今大会、「大会の事前準備は、過去にないほど良いものだ」と、いつになく強気な発言をしている。
 容赦ないことで知られるイギリスメディアを目の前にして「経験を積み、僕は成熟した大人の選手になった。そして、どうすればロジャー(フェデラー)やラファ(ナダル)、ノバック(ジョコビッチ)らを倒せるかが、分かってきている」と言い切る姿からは、無機質なコメントに終始することで、自身を外界から守ってきたかつての繊細さは消えていた。
「今は、数カ月前と比べ、とてもいい状態でプレーできている。だから、チャンスはあると思っている」
 彼が言うチャンスとはもちろん、ウィンブルドン優勝に他ならない。

「トーチ」の行方は!?

「君ほど才能ある選手が、グランドスラムで優勝できない訳はないよ」
 今年の全豪オープンでマレーにそう激励の言葉をかけたのは、勝者のジョコビッチだった。この二人による全豪決勝が決まったとき、大会を中継したオーストラリアのテレビ解説者は、「トーチが手渡された瞬間だ」と口にしている。「トーチを手渡す」とは、世代交代を意味する慣用句。その解説者の発言を記者から伝え聞いたフェデラーは、「君たちは直ぐそうやって結論を急ぐ。また半年後に聞いてくれよ」と性急な世論にくぎを刺し、そして全仏オープンでナダルとの“クラシックファイナル”を実現したことにより、かろうじてトーチを手元に残した。
 だが、世界1位のナダルにポイント差わずか65に迫るジョコビッチの王座奪取は時間の問題のようであり、またその同期生の快進撃に触発されたマレーは、胸を張って地元で主役を演じる覚悟を固めている。上位シード勢が順当に勝ち進めば、ジョコビッチはフェデラーに、マレーはナダルに、それぞれ準決勝で当たることになる。
 トーチは手渡される物ではなく、奪う物。
 伝統を尊び、過去8年にわたりフェデラーとナダル以外の優勝者を出していないウィンブルドンで変革の機が訪れるのなら、それは悠久の時の中でいくつもの世代交代を目撃してきたこの大会が、125年という節目の年を迎えるに相応しいのかもしれない。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント