守護神・馬原、復活への確かな一歩=鷹詞〜たかことば〜

田尻耕太郎

迷いがなくなり、これまでとは違う表情に

馬原の完全復活によって、福岡ソフトバンクの戦う形が完成する 【写真は共同】

「マウンドに上がって一番大事だと考えているのは、気持ち、です。(今日は)迷いがなかった。それが一番(の収穫)だと思います」

 福岡ソフトバンクの馬原孝浩。絶対的守護神が完全復活へ確かな一歩を踏み出した。
 5月17日、宮崎県内で行われていたファーム交流戦「みやざきサンシャインシリーズ」の東京ヤクルト戦(アイビー)でファーム降格後初の実戦マウンドに上がったのだ。
 最初の打者は中尾敏浩。146キロの直球が決まり、続くフォークで空振りを取って追い込むと、5球目のフォークでピッチャーゴロ。続く打者はエラーで出塁を許したが、育成選手の麻生知史には格の違いを見せてフォークで内野ゴロを打たせて併殺打を完成させた。1回無失点。ファームとはいえ、4月23日以来のマウンドで、今季初めて“セーブ”をマークした。

 登板後には「久々の試合で感覚がもう少し。フォークも(バットに)当てられてしまったし、完全に抜け切れていなかった」と反省の言葉を口にしたが、表情がこれまでとは明らかに違った。心のもやは、もう晴れていた。

一流選手ゆえに生まれた“ズレ”

 開幕から5戦投げて全試合で失点。防御率13.50という考えられない大不振だった。実は開幕日の4月12日、馬原の姿はチームになかった。その2日前、最愛の母が他界したのだ。その精神的ショックをこの不調に結び付ける声も多い。しかし、馬原自身は真っ向から否定する。
 また、あるOBも「それはない」と言う。「自分もプロ3年目に父を亡くした。もちろんショックだった。でも、野球をやっている時、マウンドに立っている時だけは心のすき間を埋めることができた。野球には集中できた。プロ野球選手とはそういうもの」と自身の経験を重ねて語った。

 ただ、調整に何らかのズレが生じたことは否めない。もともと馬原はち密なトレーニングとケアを積み重ねて現在の地位を築き上げてきた。シーズン中の遠征では、外出するチームメートには目もくれず宿舎の一室でウエートトレに励むこともしばしば。就寝前の1時間のストレッチは中学生のころから15年以上も日課となっている。
 著名なトレーナーは分かりやすく例えた。「一流選手になればなるほど体は繊細になる。たとえば、軽自動車ならねじが1本くらい緩んでいても走るけど、F1マシンはそうはいかない」。

豪腕助っ人も復帰を待ちわびる

 4月24日に登録を抹消された馬原は、ファームでは走り込みや負荷をかけたトレーニングを増やすなどしてもう一度体の土台を作り直した。5月6日に初のブルペン入り。担当コーチやブルペン捕手も「いい球を投げていた」と話すが、馬原自身は「試合で投げてみないと何も分からない」と話していた。普段は温厚な馬原がいら立った口調になったこともある。入団以来ほとんど見たことのない姿に驚きもあった。

 しかし、それは過去のこと。今はもう、迷いはない。宮崎ではその後2試合に登板し、すべて1回無失点に抑えて計3セーブをマークした。22日には1軍合流も果たした。

 現在、1軍はパ・リーグの首位を快走している。特に先発陣が踏ん張っており、5月18日から21日までは3試合連続完封勝利。球団史上40年ぶりの快挙を成し遂げた。33試合消化時点でのチーム完投数は9。昨季の6つを、早くも上回った。守護神の不在をチームメートが必死にカバーしている。

 だが、シーズンは長丁場。馬原の力は必ず必要になる。豪腕助っ人のファルケンボーグさえも「9回の抑えをできるのは馬原だけ」と復帰を待ちわびている。

 馬原がマウンドに君臨して、ようやく福岡ソフトバンクの戦う形が完成する。通算161セーブの守護神の完全復活。1日でも早く、と切に願う。

<了>
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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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