バダ・ハリ インタビュー「あれから1年。俺は何も変わってない」

J SPORTS

バダ・ハリ、いよいよ1年ぶりのリングへ 【t.SAKUMA】

「俺は何も変わってない。大切な部分は何も変わっちゃいない」。
 昨年5月のアリーナ大会で、倒れたヘスディ・カラケスを蹴って犯則負けとなり、多くの関係者やファンから非難を浴びた。自己反省の結論は、ヘスディへの謝罪とともに自らを謹慎処分に処すことだった。あれから1年が経った。その間、ドアマン暴行事件容疑の出頭要請に応じ、警察の事情聴取を昨秋に受け、証拠不十分で容疑は晴れた。やっと後顧の憂い無く再びリングに立つ決意もできた。

 会う約束をすると練習時間を後回しにしても約束を優先するバダ。
「約束は約束だ。インタビューが先。それを終えてから練習だ」とトレーナーに告げる。
 律儀な男なのだ。真正面の取材には真剣な口調で真正面に答えてくれる。懸命に考えて応じてくれる。低い声でしっかりした口調で応じてくれる。取材一つにも真剣勝負で向かい合ってくれる。ジョークで笑いを狙う記者会見では見られないバダの姿がそこにある。

 根は真面目な青年なのだ。モロッコ移民がオランダで格下扱いされることへの不条理な気分。社会制度的に差別されることはないが、上から目線で見られる不条理さを敏感に感じている。だから、心の奥には憤りの種火がいつもチラチラしている。何かの拍子に燃え上がって爆発を起こす。路上でもリング上でも何度もあった。でも、対対の話での印象は真面目だ。仲間思いで今を真剣に生きる一人の青年だ。

得意技は動体視力、「後の先」を取る心理的攻防

インターネットでグレゴリーの対策中? 【提供:J SPORTS】

「グレゴリーはロートルだ。けどロートルは危険だ。若手よりハングリーだから。それも経験豊富なハングリーだ。厄介だ。自分はまだやれると証明したい気持ちがある。俺との対戦はチャンスだと思っているはずだ。最終ラウンドまで戦えれば健在証明になるからな」。
 なるほど、という視点で対戦相手を見つめ分析していた。でも、
「でも俺は最後まで奴につきあうつもりはない。短時間KOで行く。パンチ」。
 自分のやり方でいつも通りにKOファイトを見せることだけを考えている。誰と戦うときもいつも真剣だ。手抜きは観客への冒涜だと決めている。

「得意技は動体視力」。
 そして類稀なるそのスピード。およそ戦う競技で第一に大切なのはスピードに尽きる。キックヘビー級でバダのスピードは文句なく頂点。それも他を遥かに引き離す、ミドル級やライト級のスピードを持つ。バダの試合は『後の先』が多い。相手が動いてから応じて相手の上を行く。カウンターが可能となる。多くの対戦相手がそれでマットに沈んだ。相手に先に手を出させる心理的攻防こそがバダの試合の真骨頂だ。

 アリスターとの再戦となった09年K−1グランプリ。アリスターの左肩筋肉がピクンと動いた瞬間にバダの右フックが顔面を打ち抜き、繰り出していた左フックを空振りしながらアリスターは前のめりにダウンした。何が起きたのか分からないアリスターは圧倒的スピード差に肝を抜かれ、呆然とした。その後はコーナー磔TKOとなって散ったのは多くのファンが見た通りだ。

 手を出してこない相手にはバダは遠慮なくサンドバッグ攻撃を繰り出す。セフォーとの試合がそうだった。

自身の不在がヘビー級をつまらなくしてしまった

1年ぶり復帰戦へ着々と仕上がっている 【提供:J SPORTS】

「俺不在のヘビー級をどう思うかって? 俺が答えるの? そりゃ傲慢になるわ」。
 言いながらバダは笑った。バダの試合には緊張感がある。ピーンと張り詰めた緊張感が、リング上のみならず会場全体のファンも包み込んでいる。そのことをバダは確信している。緊張の欠けたスローなヘビー級の試合を残念だと思っている。「俺はリングに緊張感を戻したい」と呟いた。自分の愚かな行為で自らリングから遠ざかり、それがヘビー級をつまらなくしてしまった原因の一つであることをバダはバダなりに自覚しているようだ。だからこそ己に忸怩たる思いがあり次の復帰戦に厳しい態度で臨む。

「俺は何も変わってない」とバダは言った。
 本当だろうか? この1年、バダにとっては激動だった。自覚する、しないに関わらず、かなりの内面変化を起こしたものと見た方が妥当だろう。「俺は変わった。昔の俺じゃない。次の俺を見てくれ」などと言えば、それこそバダには似合わない。「俺は何も変わってない」はバダの照れ隠しだろう。だからこそ1年ぶりの復帰となるリヨン大会のバダを確かめなければならない。バダがどのような試合をするのか、ファンならば見るべきだと思う。そこに今後のヘビー級の凝縮された何かが垣間見えるかもしれない。

(テキスト:遠藤文康)
■「〜最強打撃格闘技〜IT’S SHOWTIME 2011・5・14 リヨン大会(フランス)」
5月15日 (日) 4:55 − 8:00 J sports ESPN
<再放送>
5月15日 (日) 17:00 − 19:00 J sports ESPN
5月22日 (日) 20:00 − 22:00 J sports ESPN
特別解説:魔裟斗/解説:布施鋼治/実況:矢野武

【対戦カード】

<ヘビー級 3分3R>
トニー・グレゴリー
バダ・ハリ

<ヘビー級 3分3R>
タイロン・スポーン
イゴール・ミハレビッチ

<70kg 3分3R>
シャヒッド・オウラッド・エル・ハジ
ジョルジオ・ペトロシアン

<ヘビー級 3分3R>
フィクリ・アメジアーネ
ダニエル・ギタ

<70kg World Title Match 3分5R 
ウィリー・ボレル
クリス・ンギンビ

<73kg World Title Match 3分5R>
ヨハン・リドン
マラット・グリゴリアン

■IT’S SHOWTIME 2011シーズン大会予定
5月21日(土)アムステルダム大会(オランダ)
6月11日(土)ワルシャワ大会(ポーランド)
6月18日(土)マドリード大会(スペイン)※J SPORTSにて放送
9月23日(金)ブリュッセル大会(ベルギー)
10月上旬 ヨーロッパ大会(調整中)
12月下旬 ヨーロッパ大会(調整中)ほか
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