東京V、勝利を追い求めてつかんだ手応え=味スタ決戦! 春の東京ダービー祭り

海江田哲朗

徐々にペースを握り返した東京V

東京Vは中盤の底に位置する小林祐希(右)がうまくパスを散らし、前半主導権を奪った 【Getty Images】

 試合が終わったピッチには勝者も敗者もなく、東京ダービーを戦った選手がいるだけだった。ダービーのような特別な試合には、燃焼という価値観がある。宿敵同士、意地と意地のぶつかり合い。それ以上に、後先を省みない潔さがある。

 勝てば、順位が上がる。浮上のきっかけをつかめる。ゲームが始まってからは、そういった目算は関係なくなる。すっかり忘れてしまい、目の前のサッカーに没頭する。終了のホイッスルが鳴り、空を見上げる。はけをサラッと走らせたような雲が浮かんでいる。わたしは、すってんてんになった気分だった。この感覚をほかの何かになぞらえ、説明することは難しい。

 戦端を開いたのは、FC東京だった。梶山陽平が中央をこじ開けようとする。東京ヴェルディ(以下、東京V)の土屋征夫が止める。阿部巧がドリブルで駆け上がる。また土屋が止める。最初の5分、PKと判定されてもおかしくない、際どいシーンがそれぞれ1度ずつあったが、主審の飯田淳平はプレーを促した。東京Vの前線では今季初先発となった平繁龍一が、オフサイドラインギリギリの駆け引きを続けていた。井上平もまた、裏を狙う動きを繰り出す。そこに東京Vは縦パスを入れ、ラインを押し上げる。序盤、FC東京に攻め込まれながら反撃の一手を残していたことが、ペースを握り返す足掛かりとなった。

 東京Vは徐々にボールを動かせるようになり、パス回しにリズムが生まれる。20分を過ぎたころには主導権を奪い、相手のエリアを切り崩す機会を増やしていった。河野広貴がドリブルを仕掛ける。左足で細かくボールを動かし、狭いところを抜け出す。ファウル以外は受け付けないドリブルである。一気にゴールに迫り、シュートを撃つ。また、中盤の底に位置する小林祐希がうまくパスを散らしていた。ボ−ルを受ける。相手の寄せをいなす。逆サイドに展開する。あるいは手近な味方にいったん預け、リターンを受けに走る。1本のロングキックが狙いから大きくそれた。だが、それもチャレンジのプレーであれば悪くはない。自分がゲームを動かすという意志表明であり、数週間の確かな成長である。

ゲームの展開を狂わせた退場

 東京Vのペースが続いていた。28分に平繁龍一が腰を痛めてピッチを去ったが、代わって入った平本一樹が前線にポイントを作る。周囲のサポートも迅速だった。しかし、前半のうち決定機にカウントできたのは、39分のCKから井上が頭で合わせたシーンだけだった。それでもゲームを支配してからはFC東京にほぼ何もさせていない。いくらでもチャンスを作れそうだった。その認識の甘さを知るのは、あとになってからだ。

 後半、ゲームの流れを大きく変える出来事が起きる。54分、FC東京のロベルト・セザーが2枚目の警告を受け、退場となった。数的優位となった東京Vだったが、結果的にこれが裏目に出る。

 味方を退場で失い、10人の戦いを余儀なくされる。サッカーにおいて、そのシチュエーションは珍しくない。選手はサッカーを始めたころから数え切れないほど経験し、何をすべきかを知っている。身体に染みついている作法がある。古今東西、やることは変わらない。前線の枚数を削り、中盤以下は穴を作らないようにする。全体をやや引き気味にカウンターのチャンスをうかがう。ボールを奪ったら、前に行ける選手が飛び出すしかない。それまで大熊清監督の戦術が機能しているとは言い難かったからこそ、戦い方が限定された効果は大きかった。

 逆に、数的優位となったチームの選手には、条件反射のように警報が鳴る。これまでの経験で手痛いしっぺ返しを食った記憶が、脳裏をかすめる。まして、今季の東京Vは引いた相手を崩せず、失点を重ねてきたチームだ。有利になることより、警戒する気持ちが強くなっても不思議はない。

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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