東京V、勝利を追い求めてつかんだ手応え=味スタ決戦! 春の東京ダービー祭り

海江田哲朗

精いっぱいのスコアレスドロー

東京Vのサポーターは苦心の末に完成させたコレオグラフィーで選手たちを迎えた 【Getty Images】

 59分、大熊監督は谷澤達也を投入し、さらに68分にはペドロ・ジュニオールを入れて1トップを張らせる。10人になってからのFC東京は強かった。そこへ前半から飛ばしていた東京Vの運動量低下も重なった。青赤の波がかさにかかって攻めてくる。FC東京は相手守備陣の薄い方にボールを動かし、東京Vの防衛ラインを軽々と突破した。それまでのギクシャクつないでいたチームとは思えないスピーディーな攻撃だった。

 わたしのいるメーンスタンド中央部から見て、左手に目にも鮮やかな緑が広がっている。一方、右手は目をつむっていた方がマシな景色しかない。共に尋常ならざる気炎が立ち昇っている。ここで、がぜん勢いを増してきたのはFC東京側だ。右手からの圧力をひしひしと感じる。

 東京Vは攻めあぐねていた。相手を振り回していたパス回しが停滞し、工夫のない縦パスが増えた。そこで川勝良一監督が交代のカードを切る。71分に飯尾一慶、80分に市川雅彦を送り込んだ。だが、FC東京の侵攻を止められず、ゲームの流れを引き戻すことはできなかった。つくづく、チームは微妙なバランスの上に成り立つ。最後には、好守を見せていた土肥洋一が故障で退き、平本がGKを務めることに。FC東京の攻撃を跳ね返すだけで精いっぱいとなった。そうして、3年ぶりの東京ダービーはスコアレスドローに終わった。

率直さが東京ダービーを面白くする

 左足をアイシングした河野がミックスゾーンに姿を現した。
「勝てると思った。相手が2人寄せてきたけど全然平気。まとめて抜いてやるつもりだった。点取らなきゃ駄目ですよね。相手が少なくなって難しくなるなんて、本当はおかしいですもん。もっとパスを回して、崩せたはずなのに。でも、楽しかった。ガチガチに守られることなく、久しぶりにサッカーをやった気がします」
 
 小林には、71分に下げられたことについて、納得しているかを尋ねる。
「足がつりそうにはなっていましたけど……。あの時間帯、ボールを左右に散らすように指示を受けていたんですが、前に蹴ることが多くなっていた。その仕事がきちんと果たせれば、フル出場できたかもしれませんね。その状況でどんなプレーが有効なのか。もっと研究し、人に聞いて、大人のサッカーに入れるようにしたい」

 彼らのプレーや言葉は率直である。その率直さがきっと東京ダービーを、Jリーグをより面白くする。時にスタジアム内外でエモーショナルな言動が横溢(おういつ)し、不埒(ふらち)な問題も発生するだろうが、全部いいとこ取りはできないのだから、ひとつずつ学んでいくしかない。学ばないのはばかである。

 この日は初夏を思わせる暑さだった。ピッチの近くに出ると、ひんやりした風が顔をなでる。さっきまでの狂騒がうそみたいな静けさだ。それにしても、東京Vのサポーターが苦心の末に完成させたコレオグラフィーはなかなかの出来だった。ところどころ荒れている芝が、戦いの激しさを物語る。共に勝利を追い求めてぶつかり合った残滓(ざんし)が、誰もいなくなったピッチにいつまでも漂っているようだった。

<了>

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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