FC東京、10人で得た一体感と浮上へのヒント=味スタ決戦! 春の東京ダービー祭り

後藤勝

後半の戦い方に見えた可能性

FC東京の鈴木達也(中央)は10人になってからの戦い方に「手応えがあった」と語る 【Getty Images】

 1人少なくなった後のFC東京の猛攻には可能性が感じられた。具体的には、人数が少ない分、ランやドリブルの量が増え、距離が伸びて迫力が出たのである。
 もちろんこれは「後ろで守る」「引いた状態から出ていく」という戦術に移行したからで、その迫力が出た部分を、前半のような従来の「前からプレスをかける」「つないでチャンスを作る」サッカーに、そっくりそのまま応用するわけにはいかないかもしれない。そもそも、前半のスタイルのまま後半を戦い、内容を良化して得点できるか否かの検証が、セザーの退場で戦い方を変えたことによってできなくなってしまった。

 次節の富山戦は、今季やってきた戦い方が本当に駄目なのかどうかを検証するという理由も含め、基本的なスタイルは変えずに戦うだろう。ただしその際に、後半に見せたサッカーを生かさない手はない。大熊清監督は「後半の気持ちを今後、前半から出すことが大事」だと言うが、その通りだ。

 このことに言及していたのは鈴木達也である。
「勝ちたい試合でしたけど、退場者が出た中で10人で押し込めたのは、これからの目安になるというか。自信としていいところだと思う。発展させて膨らませて、次の試合に臨みたい。最後、10人でひとつになって戦ったあのプレーがヒントになる」

 そこで、聞いてみた。後半の引いたところから出ていく戦い方は、いつもの前から行くやり方とは違うが、これを反映させるとするとどの部分か。例えば、萎縮しないで自分でボールを運ぶ、そういうダイナミックなプレーをポゼッションサッカーに入れていくなど。

「そうですね。確かに、それぞれが前向きにボールを運んだり、裏に抜けたりとか。そういう積極的なプレーが今日の後半にはあったから、10人で押し込めたと思う。そういうところを次節は前半からできれば、という話はしました。個人的には、前半から裏へ抜ける用意はできているんですよ。
 あと1個、攻撃のスイッチを入れるところで簡単なパスミスがけっこう多かったので。単純に一発でセザーの裏を突くのではなくて、セザーが裏に抜けたスペースを、大樹さん(高松)がポストで使ったりとか。慌てないでパスを経由できれば、僕らアタッカー陣は裏に抜ける準備はできている。そういう意味では、僕らは個人的には手応えのあった試合でした。続けていければと思います」(鈴木)

ブラジリアン濃度低下?

 2トップにボールが入らない東京ダービーというと2001年──味の素スタジアムのこけら落としを思い出す。あの時のFC東京にはアマラオ、呂比須ワグナー、ケリーがいて、呂比須が2ゴールをマークした。呂比須は帰化してワールドカップ・フランス大会に出場後3年目でまだ威光があり、アマラオは自身の連続2けた得点を更新中の時期だった。ケリーは何より稀有(けう)なタレントで、チーム合流が遅かったにもかかわらず途中出場させるほどに優秀だった。

 比較的優れた、それも日本に慣れた異国の血を持つ者たちが、まともなコンディションを保っていたチームだ。うまくポゼッションはできていなかったが、11年よりも得点力はあった。けが明けで個人としてコンディション不良、チームとしてもコンビネーション不足のブラジル人しかいない、今年のチームとはわけが違う。

 その01年もポゼッションサッカーで結果が出ず、結局は呂比須も退団して、速攻タイプのチームに戻った。あの時は1トップにポスト役のアマラオ、トップ下には技巧派のケリーがいて、縦に抜ける部分は両サイドハーフの戸田光洋と佐藤由紀彦が担っていた。
 11年のチームにも、同じ役割をこなせる選手はいる。速攻型にトライする余地はある。もし、今季ここまでの前線からの守備+ポゼッションサッカーに、“ラン・ウィズ・ザ・ボール”、ドリブル、裏へ抜ける縦への意識(の共通認識)、攻める気持ち──を加えるマイナーチェンジを施してもうまくいかなかった場合は、堅守速攻型に移行してもいいと思う。それこそ、ペドロ・ジュニオールが2月に負傷する以前のスピードを取り戻せば、ハマる確率は高そうだ。

 今後しばらくのFC東京を語る上でのキーワードはブラジル人になるのだろうか。はっきり言って、現状は外国人枠3つを無駄にしている。一定のコンディションをキープしている鈴木達也を中心に攻撃陣を編成すべきかとも思うが、大熊監督が言うように「(ブラジル人は)試合で使いながらでないと上がっていかない」側面があるのも確かだ。まずは、ペドロから。次にセザー。最後にホベルトがキャンプ中盤までの将軍ぶりを発揮するようになれば、ようやく買い物の効果が出る。

 権田は言う。
「けがから戻ってきて、ちょっと練習をしただけで試合に出ている選手もいます。いろんな選手がいてまだ合っていない部分もありますし、今までやってきたことが出ている形もある。見ていて『こんなもんじゃないでしょ』と思われると思うんですが、僕たちも、もっともっと、いいサッカーができると思っています」
 その余地があることを、まずは次の試合で示してほしい。

<了>

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著者プロフィール

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」 (http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。「サッカー入門ちゃんねる」(https://m.youtube.com/channel/UCU_vvltc9pqyllPDXtITL6w)を開設 。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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