切羽詰まったFC東京と東京Vの譲れない戦い=味スタ決戦! 春の東京ダービー祭り

海江田哲朗

東京ダービーの復活

前回の東京ダービーは08年8月23日のJ1リーグ戦。東京Vが2−1で勝利した 【写真:アフロ】

<地下鉄の車内にはレンジャース・ファンしかいない。グラスゴー市の中心部に向かって走る車内では、列車が刻む金属的な振動音をかき消すほどの声量で、ファンたちはいつもと変わらずに心から楽しそうに古いサポーターズ・ソングを歌い続けていた。それはライバルに憎しみをぶつける歌詞なのかもしれないが、ファンたちはそんなことは感じていなくて、歌詞に関係なく勝利に盛り上がって歌っていた。たぶんグラスゴーの別の場所では、緑と白に身を包んだセルティック・ファンの男性や女性たちが、同じように声を張り上げサポーターズ・ソングを歌っているだろう>
『英国のダービーマッチ』(ダグラス・ビーティ:著 実川元子:訳/白水社)より。

 4月30日、味の素スタジアム。FC東京とコンサドーレ札幌の一戦はスコアレスドローに終わった。FC東京側のスタンドからは盛大なブーイングが発せられ、そして、やがて聞こえてくるそれは、東京ダービー専用のチャントだった。次節は5月4日、東京ヴェルディ戦(以下、東京V)である。

 東京ダービーが復活する。2008年以来、まさかのJ2で。そもそもの話、今回の東京ダービー特別企画では、東京Vの川勝良一監督、FC東京の大熊清監督のインタビューをお届けする予定だった。東京VからはすぐにOKが出た。ところが、FC東京の方はNGだった。両者を並び立て、対比する構図が好ましくないとの理由を伝え聞いた。これは今回に限った話ではなく、ほかのメディアに対しても同様の対応をしているという。

 東京Vサイドからプッシュしてもらおうと考えたが、すでにダービーに関する協同企画はお断りを受けていると聞いた。ずいぶん狭い了見もあったものだとあきれる一方、もしやFC東京にとって、東京Vとのゲームはちっとも特別ではないのか、果てはダービーの存在自体を否定したいのか、だとしたら話は違ってくる。この点、サポーターの意欲については心配無用だ。昨季、FC東京のJ2降格が決定した試合後、次のシーズンに向けて早くもダービーのチャントが歌われた話はあまりにも有名である。

「ヴェルディには負けるな。昔からそういう教育を受けてきた」

 そんなわけで、わたしは敵情視察を兼ねてFC東京のホームゲームを訪ね、監督会見後の囲み取材で大熊監督に東京ダービーへのコメントを求めた。
「ずっとライバルとしてやってきて、久々に味スタでの試合になる。しっかり勝ち点3を目指して戦いたい」

 ライバルという意識はあるんですね、と念押しする。
「そうですね、はい。みんなそうです」
 大熊監督はキョトンとした顔をしていた。何を今さら当たり前のことを、と思われたようだった。

「どの試合も大事ですが、東京ダービーは特別。ユース時代からライバルとして戦ってきて、サポーターも負けられないと強く思っている。絶対に勝たなければいけない試合です」と語ったのは、育成組織出身のMF大竹洋平だ。同じく、GK権田修一は「ヴェルディには負けるな。僕らは昔からそういう教育を受けてきた」と話した。

 監督や選手のコメントはすべてを額面通りには受け取れないものだが、どうやら要らぬ勘繰りだったらしい。わたしは次のように考える。特別な対戦カードを確立し、世に広くアピールするのは、夜空に瞬く星々を結び付け、Jリーグの星座を作るようなものである。より多くの人々に分かりやすく伝え、新たなパワーを取り込むために。たとえプロモーション先行型であっても、周りが面白がって続けていけば、そのうち本物になるかもしれない。そこで東京ダービーは、日本に数あるダービーマッチの中で起こるべくして起きた戦いであり、そこにあるべくしてある星座だ。

 ただし、現状、東京の祭りとして周囲に認知されるにはいかにもパワー不足であり、加えて舞台はJ2である。百歩譲り、ダービーマッチを盛り上げる積極的なアクションを起こさないのはいいとして、何もブレーキをかけることはあるまい。だいたい、Jリーグの新たなスローガンである「チカラをひとつに。‐TEAM AS ONE‐」の精神はどこにいったのか。FC東京に対しては、あれだけ能力の高い選手をそろえ、なぜJ2に降格するのかつくづく不思議だったが、今回のことで妙に合点のいった思いだった。大きな夢を掲げるクラブが、ちんけなプライドに縛られているから落ちるのである。

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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