切羽詰まったFC東京と東京Vの譲れない戦い=味スタ決戦! 春の東京ダービー祭り
開幕3連敗の最下位にあえぐ東京V
能力の高い選手をそろえるFC東京だが、開幕から1勝1分け1敗と苦しんでいる 【写真:杉本哲大/アフロスポーツ】
しかし、である。調子がいまいちなのは、残念ながら東京Vも同じだ。開幕3連敗の最下位にあえぎ、スタートダッシュにつまずいたFC東京を笑っていられる立場ではない。前節、GK土肥洋一とMF佐伯直哉がスタメンに復帰したが、その一方でキャプテンのDF富澤清太郎やDF高橋祥平らが故障で戦列を離れている。何より、失点の多さが気掛かりだ(3試合で6失点)。アンラッキーな失点もあるにはあるが、こう続くとそれだけでは片づけられない。昨季の東京Vはチームワークに秀で、J1昇格にあと一歩まで迫ったチームであり、現在もベースとなっているのはそこだ。結果が出ないのは、全体の問題としてとらえるべきなのだろう。
5月1日、東京Vの練習グラウンド。通称ランドは小高い丘の上にあり、強風が容赦なく吹きつけた。川勝監督は現在のチームの状態をこのように語る。
「ひとつの失点が重いね。リードを奪われ、短時間に修正できるしたたかさが身についていない。攻撃面ではボールを動かすのに、全員が参加しすぎてその先でアタックを仕掛ける人が少ない。前節の鳥栖戦でゴールを決めた平繁(龍一)は、そのあたりでほかの選手との違いを見せた。昨年、クラブの経営が傾き、苦しい状況でもチームが持ちこたえたのは、ピッチ内外で人間同士の強いつながりがあったからです。あの時の気持ちを忘れてはいけない」
好調時における東京Vのポゼッションサッカーは、マジシャンの技とよく似ている。ただ単にボールを動かしているように見える横パスは、「タネも仕掛けもございません」とギャラリーにさらす方の手。その実、注意をそらしたもう一方の手が、決定的な仕事をしている。スピーディーなパスワークで相手の視野を限定し、おびき寄せつつ、裏側でアクションを起こさなければ、ゴールという目的は達成されない。
ルーキーにFC東京への恐怖心はなし
川勝監督は前線のメンバーの入れ替えを示唆する。攻撃の中心として起用されてきた河野広貴は、川勝監督から最後通告を受けた。
「ダービーにはどうしても出たい。試合まであと3日、練習で全力アピールしてピッチに立つ。相手選手のレベルが高く、J1のチームとやるようなものだし、お客さんもきっとたくさん入る。燃えます」
河野は08年のルーキーイヤー、東京ダービーを経験している。だが、ナビスコカップ2試合に途中出場しただけで、1本のシュートも放っていない。今度こその思いは強い。
東京ダービーの有史以来、戦績は東京Vの4勝2分け11敗(カップ戦含む。ヴェルディ川崎時代は除く)とだいぶ分が悪い。特に記憶に濃いのは、04年のナビスコカップ準決勝、延長戦の末に3−4で敗れたゲーム。これまで東京Vの勝利はすべて1点差であり、FC東京は常に手ごわい敵であり続けてきた。
ところが、東京Vユース上がりの今年のルーキーたちは、FC東京に対するイメージそのものが違う。「負けたことがないし、負ける気がしない。もちろん、何があっても負けたくない。そんなところですかね」と言うのは、MF小林祐希だ。そこへMF高木善朗やDFキローラン木鈴が話に割り込み、「負けるわけがない」「楽勝ですよ」と自信満々に言う。
この3人の会話はあっけらかんとしたものだ。
「おれたちの代は、練習試合でも負けなかった」
「今野さんって、どんだけ抜けないのだろうか」
「何と言ってもワールドカップに出た人だからな」
「いや、案外抜けるんじゃないか」
「そんな気もする」
「とにかく、前にいたらおれは仕掛けてみる」
「世界レベルを知る人だから、いい物差しになるはずだ」
バリバリの日本代表である今野泰幸に勝負を挑む前に、彼らはチーム内の競争を勝ち抜かなければならない。話はそれからだ。いざピッチに立てば、思い切ったプレーであっと言わせてくれるかもしれないという期待感はある。
5月4日、味の素スタジアムで15時キックオフ。サポーターの声によるダービー特有の雰囲気が過去の激闘を炙りだし、ガラッと変わり身を見せることも考えられる。図らずも切羽詰まった状況にある両者が、ただでさえ譲れない東京ダービーを迎える。その重みはいかばかりか。さぞかしコクがあるだろう、今季初勝利の味が待ち遠しい。
<了>