世界で活躍する選手を育てるために=Jリーグアカデミーダイレクター研修に密着

鈴木智之

聞き慣れない言葉、アカデミーダイレクターとは?

Jリーグ技術委員会委員長の上野山は「育成こそが日本のサッカーの生命線」と、その重要性を力説する 【鈴木智之】

 サッカークラブには2本の柱がある。それは強化と育成だ。強化は主にトップチームを中心に組織され、育成は将来的なトップの強化を見据えて、低年齢から選手を育てていくことである。トップチームの強化を司るのが、ゼネラルマネジャー(GM)や強化部長と呼ばれる人物。そして育成部門を統括する責任者が『アカデミーダイレクター(以下AD)』だ。
 ADは2009年にリニューアルされた制度で、同年にJリーグ技術委員会委員長に就任した上野山信行の発案を受け、各クラブは育成責任者の名称を『育成センター長』からADに変更。クラブの育成を統括する重要なポストと位置づけられている。

 上野山はADの重要性についてこう語る。
「ADは育成組織の進む道を決め、目標に向かって導いていく人です。そのためにはU−18、U−15、U−12など、各年代、カテゴリーで指針を打ち出さないといけません。今年のJリーグ・キックオフカンファレンスでも、大東(和美)チェアマンが、Jリーグとして『育成への取り組み』を目標のひとつに挙げています。育成は時間がかかりますが、きっちりと取り組む必要があると思います。育成こそがJリーグ、ひいては日本のサッカーの生命線だと思っていますから」

 上野山が技術委員長に着任した2009年に、Jリーグ、クラブ全体の目標として、あらためて『世界で活躍する選手を育成しましょう』と意思統一を図った。そのためにはさまざまな面で向上していく必要がある。そのひとつが、アカデミーダイレクター研修だ。

研修に込められたJリーグの狙い

AD研修では、U−18Jリーグ選抜vs.日本高校選抜を視察して、テクニカルレポートを書くプログラムが行われた 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 2月26日に開催された富士ゼロックス・スーパーカップ2011の前後2日間にわたって、AD研修が行われた。参加したJリーグ各クラブのADの顔ぶれはさまざまだ。Jリーグでプロ選手としてプレー後、引退して間もない人もいれば、高校サッカーの指導者として多くのプロ選手を輩出した後、クラブへと環境を変え、育成に心血を注ぐ人もいる。

 この研修は2008年に現行の形式でスタートし、今回で3回目を迎える。すべての研修に共通しているのは“コミュニケーション”を重視する姿勢だ。Jリーグはプロのコーチの基本的なスキルとしてコミュニケーション能力を重視しており、前年度にはリーダーシップを扱った研修の中で、選手やスタッフの声を“聴く”こと、彼らと“話す”ことについて取り上げた。次に取り組むコミュニケーション手段は、“書く”こと。そこで題材となったのが、『テクニカルレポートの書き方』である。研修の発案者、上野山は言う。
「ADには、リーダー、マネジャー、コーチという3つの役割があります。リーダーとマネジャーについては過去の研修で取り上げたので、今回はコーチという観点から、テクニカルレポートの作成をテーマにしました」

 ADの考えをクラブで共有するためにも、レポートのスキルは必須だ。誰に何をどう伝えるか? 伝えたところで終わりではなく、相手が意見を受けて行動を起こして、初めて完結する。
「いままでレポートをたくさん見てきましたが、読み手に伝わるように書かれたものが少ない気がしていました。ADは、クラブの育成の方向を示すべき立場です。ADの考えをクラブで共有してもらうことが必要ですし、そのためにはレポートの質を上げることも大切なのではないかと考えました」(上野山)

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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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