黄金期のフィリーズに立ちはだかるチームは?=MLBナショナルリーグ見どころ

出村義和

優勝候補フィリーズに不安要素も

フィリーズはリーグを代表する左腕、クリフ・リー(写真)をオフに獲得。リーは09年以来のフィリーズでのプレーとなる。 【Getty Images】

 フィリーズが黄金期を謳歌(おうか)しているナショナルリーグ。地区4連覇、リーグ優勝2回、ワールドシリーズ優勝1回が4年間の成績だ。その強豪チームに球界を代表する左腕、クリフ・リーが戻ってきた。現役最強右腕といわれるロイ・ハラデーをはじめ、ロイ・オズワルト、コール・ハメルズとエース級の続く強力先発陣がさらに厚みを増したのだから、大本命に挙げられるのは当然だ。打線も、5年連続30ホーマー、100打点をマークしているライアン・ハワードを中心に、機動力も使える個性派がそろっている。

 しかし、アメリカンリーグの大本命レッドソックスほどのチーム力があるとは思えない。開幕直前にはオープン戦で精彩を欠いていたクローザーのブラッド・リッジが右肩痛でDL(故障者リスト)入りとなり、不安要素のひとつだったブルペンに大きな穴が空いてしまった。また、攻撃面でも3番のチェイス・アトリーがひざを痛め、長期欠場も視野に入れなければならない状態だ。選手層の厚さからみてフィリーズ有利は揺るがないが、他球団にチャンスが広がり、面白い展開になるのは間違いないだろう。

ブレーブスが東地区の対抗馬

 フィリーズと同じ東地区で立ちはだかることができるのは、チームの世代交代期をパワーに変えているブレーブスだろう。デレク・ロウ、ティム・ハドソンの両ベテラン中心の先発陣は安定感があり、若くてイキのいいジョニー・ベンターズとクレッグ・キンブレルが終盤の抑えに回るブルペンはバラエティーにも富んでいる。
 昨年ひざの手術を受けたチッパー・ジョーンズがカムバックする打線には、4年連続30ホーマーのダン・アグラが補強されてスケールアップ。さらに、2年目を迎えた伸び盛りのジェーソン・ヘイワードに加えて、同じ21歳の同期フレディー・フリーマンがデビューする。こうしたタレントをフレディ・ゴンザレス新監督がまとめあげることができれば、打倒フィリーズは現実のものに近づくだろう。

 パワフルなマイク・スタントンに注目が集まるマーリンズはバランスが取れてきたが、手薄なブルペンが命取りになりそうだ。メッツは身売り問題もあり、チーム内部がガタガタ。戦力不足のナショナルズへの期待は豪腕スティーブン・ストラスバーグが復帰し、2010年ドラフト全体1位指名の超大物、ブライス・ハーパーがデビューする来年以降ということになる。

中地区は古豪復活を遂げたレッズに注目

昨季105マイル(約169キロ)を出したチャップマン(写真)が所属する古豪レッズが復活 【Getty Images】

 中地区では、15年ぶりの地区優勝を果たして古豪復活を遂げたレッズがフィリーズを倒す力を持っている。新戦力はいないが、伸び盛りの若手が多く、レベルアップが期待できる。MVPのジョーイ・ボット中心の打線はパンチ力も十分。投手陣にやや不安はあるが、メジャー最速105マイル(約169キロ)を出したアロルディス・チャップマンの存在で投手陣全体のレベルアップが見込める。内外野ともに守備が堅いのも、このチームを復活させた要因だ。

 現役最強打者アルバート・プホルス率いるカージナルスは、20勝投手のアダム・ウェインライトがトミー・ジョン手術(側副じん帯再建手術)でシーズン全休、致命傷になりそうだ。むしろ、積極的な戦力補強をしたブルワーズにチャンスがあるだろう。移籍のサイ・ヤング投手、ザック・グリンキーはDLで開幕を迎えるが、2週間程度で戻れる見通し。先発陣がそろえば、斎藤隆が加わったブルペンと合わせて地区最強の投手陣になるかもしれない。打線はプリンス・フィルダーとライアン・ブラウンの左右2枚看板に、29ホーマーのリッキー・ウィークスがいる。投打ともかなり充実したチームになっている。
 福留孝介所属のカブス、アストロズは駒不足。万年再建チームのパイレーツは、今年も指定席の最下位脱出を目指す。

西地区は王者ジャイアンツが厳しい戦いか

 西地区はフィリーズを破り、ワールドチャンプの座まで駆け上がったジャイアンツがやはり強い。原動力になるのはメジャートップのチーム防御率を残した投手陣だ。昨年来の疲労を心配されていたエースのティム・リンスカムも、スプリングトレーニングを順調にこなして不安を払拭(ふっしょく)した。ところが、開幕を目前にして守護神ブライアン・ウイルソンが右肩痛でDL入り。開幕ダッシュを目指すチームには大きな誤算になってしまった。
 2年目を迎えたバスター・ポージーが中心になる打線の頑張りが必要とされるが、巧打者はいても強打者に乏しい。昨年のように、日替わりのヒーローが出てこないと、厳しい戦いを強いられることになる。

 面白い存在なのは、トロイ・トゥロウィツキーとカルロス・ゴンザレスが打線の中核を担うロッキーズだ。どのチームより爆発力がある。終盤の追い上げも、いまやお家芸だ。黒田博樹が所属するドジャースは打線に不安があり、今年も投高打低チームから脱却できそうもない。パドレスは主砲エイドリアン・ゴンザレスが抜けて、ドジャース以上の投高打低では勝ち目がない。ダイヤモンドバックスはケビン・タワーズ新GMのもと、チーム作りに着手したばかりで、上位進出も難しそうだ。

 結局のところ、本命のフィリーズは変わらないが、下馬評のように圧倒的な強さがあるとは思えない。ブレーブス、レッズ、ブルワーズ、ジャイアンツ、ロッキーズまではリーグ優勝の可能性は十分にあるだろう。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。長年ニューヨークを拠点にMLBの現場を取材。2005年8月にベースを日本に移し、雑誌、新聞などに執筆。著書に『英語で聞いてみるかベースボール』、『メジャーリーガーズ』他。06年から08年まで、「スカパー!MLBライブ」でワールドシリーズ現地中継を含め、約300試合を解説。09年6月からはJ SPORTSのMLB実況中継の解説を務めている

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