バルサのパスはなぜつながるのか?=スクールのコーチが明かすその秘密
バルセロナスクールでコーチを務める村松氏にパスサッカーを成功させる秘けつを聞いた 【ジュニアサッカーを応援しよう!】
パスサッカーで重要なのは、的確なポジショニング
最も重要なことは、テクニックではなくポジショニングです。選手たちのポジショニングがいい形で広がっていれば、スペースが生まれパスはつながります。そうではない場合だと、スペースが狭くなって、パスのつながる確率は低くなってしまいますね。
例えば、あらかじめボールを持ったときに、どこに自分をサポートする選手がいて、どこにパスを引き出してくれる選手がいるかを子どもたちが分かっていれば、戸惑うことなくパスはシンプルにつながるでしょう。しかし、ポジション取りが不明確で、しかも誰がどこにいるかというチーム内の法則性がない中では、パスを出す相手を毎回ゼロから探しながらパスをつなげなければならず、それはあまりにも難易度が高すぎます。
また、きちんと止めて、蹴ることがうまくなっても、ゲームの中で周りの選手がパスを受けられるポジションを取っていなければ、そのテクニックを生かすことができません。ですから、そこには、選手たちが予測できるようなある程度の決めごとや法則性を練習によって、共有しておく必要があります。わたしたちはパスをテクニックという概念ではなく、戦術的なものを含めた、もっと広い意味でとらえています。
――練習を見学させていただきましたが、テクニックがそれほど高くない子どもでも、きれいにパスをつないでいる姿に驚きました
わたしたちは、パスをつなぐサッカーは上手な子どもたちのためにあるのではなく、誰もがやれるものだと考えています。むしろ、テクニックのレベルが高くない子どもたちにとって、パスサッカーこそ進むべき道であるとも考えています。
いいポジションを取り、相手から離れたところでボールを受けることができれば、ボールを奪われる危険性は低くなります。いいポジションを取るという意識を高めれば高めるほど、テクニックのレベルに左右されずに、誰もがチームスポーツとしてのサッカーを満喫できるようになるのです。
テクニックを磨いてから戦術的な部分を指導するという考えもあるでしょう。確かにテクニックが高い子どもは、戦術的に問題があっても状況を打開することは可能ですが、そうではない子どもたちにとっては、戦術的な知識がなければ、ただ苦しむだけです。
――練習中、日本の指導者が比較的嫌がるGKへのバックパスも多用していましたね
パスは、いい攻撃をするためにつなぐのです。状況によっては後ろへ戻すことで攻撃が組み立てられることもあるし、逆にそうではない場合もあります。問題はバックパスにあるのではなく、正しい状況判断ができているかどうかにあるわけです。
例えば、GKの周りにはほぼ確実にスペースがあります。足下の技術がしっかりしているGKであれば、そこへのバックパスは危険回避につながるし、また攻撃の起点にもなり得ます。もし、相手チームの誰かがGKにプレッシャーを掛けにいったとしても、その場合は、フィールドプレーヤーの誰かがフリーになっているはずで、その選手を使えば、攻撃面で有利になる。GKへのバックパスは必要不可欠だと言えますね。
サッカーの最終目標はゴール。パスはその手段のひとつ
サッカーをプレーする最終的な目標はゴールを奪うこと。相手がスペースを空けてくれているのなら、パスを回す必要は全くなく、真っすぐにゴールに向かってボールを運べばいいのです。バルサはボールをよく回すと言われていますが、ゴールに向かって一直線にスペースがあるなら、バルサだってパスは回しませんよ。
しかし多くの場合は、ゴール前では守備を固められています。ですから、相手を動かして、相手の陣形が崩れたすきを突いて攻撃を仕掛けるためにパスを回しているわけです。その意図を理解してトレーニングしなければいけませんね。
――その意図を含めて、ジュニア年代の子どもたちに戦術的なことを理解させるのは難しくありませんか?
子どもたちが最初からすべてのコンセプトを理解してプレーするのは不可能です。わたしたちのスクールでも、最初のころは、ボールを持っているチームがディフェンスラインでパスを回し続け、相手が動かないという状況がありました。なぜなら、「ボールを回そう」と指導されて、ボールを回すことが大切だと勘違いしていたからです。それでも、スクールでトレーニングを重ねていくことで、回しているのはゴールを奪うためであるということを認識し、法則性に対する理解を深めることで子どもたちは、相手の陣形やスペースの場所、そして、そのほかのいろいろな状況を自分たちで判断してプレーを選択するようになっていきます。
――パスを回すということが一義的ではないということですね
パスを回すことも、ボールをポゼッションすることも、ドリブルを仕掛けることも、それはサッカーの一部であって、どれも同じように大切ですが、それ自体がサッカーなのではありません。当たり前のことですが、サッカーはゴールの数を競うスポーツなんです。
――ゴールにたどり着くまで、どのようにパスを回すのが効果的なのでしょうか?
その質問には、その瞬間になるまで分からないとしか言いようがありません。状況は刻一刻と変化し、それに伴って選択肢も変化するもので、それを瞬時に判断するのがサッカーだからです。単にどうすればゴール前まで行けるかと聞かれても答えようがなく、そのときに判断するしかない。
だからサッカーは楽しいのです。自分たちの思い通りにならない状況があって、それに適応し、判断し、決断する。そういう意味では、パスサッカーという表現自体がナンセンスなのかもしれませんね。われわれが目指しているサッカーは「賢いサッカー」という表現の方が的を射ていると思います。
――日本がバルサのサッカーを超えるような日は来るのでしょうか?
日本のキャパシティーは素晴らしいものがあり、ほかの国にはない多くの長所もあります。それをうまく花開くように導くことができれば、ワールドカップ優勝は可能であると信じているし、信じたいですね。
日本にも、サッカーの本質を理解している指導者や、子どもたちがたくさんいます。そういう子どもたちが増えていけば、もっともっとサッカーの魅力が伝わるし、サッカーも強くなるし、何より、みんながサッカーの魅力を満喫してくれるのではないかと思っています。
(文:中倉一志)
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