浦和の魂・山田暢久、改革の中で果たす責任=チーム最古参18年目の挑戦

構成:ぴあ

ペトロヴィッチ監督の闘志は変わらない

チーム最年長の山田暢久は、センターバックとして後方から支える 【(C)佐野美樹】

「改革」は痛みを伴う――。浦和レッズは、かつて選手としてもプレーしたことのあるペトロヴィッチを新監督に迎え、新たなスタートを切った。新監督が掲げる方針や戦術、さらに新戦力がフィットするには、それなりの時間がかかるだろう。

 新指揮官が就任したことでチームは「改革」の真っただ中にあるが、変わらないものもある。それが山田暢久という存在だ。彼が浦和に加入したのは1994年。山田が初めてJリーグのピッチに立った時、チームメートの原口元気は、まだ3歳にもなっていなかった。現在共にプレーする若者が赤ん坊から青年になるほどの時間を浦和で過ごしてきたのだ。その間、栄光も苦難も、チームのすべてに立ち会い、経験してきた。
「Jリーグもだいぶ変わりましたね。当時はちゃんとサッカーしているのは、ヴェルディとマリノスくらいだった。でも、今はどのチームもスタイルがあって組織力がある。簡単に勝てる相手はないですからね」

 浦和でプレーし始めて18回目のリーグ開幕を迎えた山田はそれこそ、現指揮官とプレーしたこともある。
「当時の僕は右サイドでプレーしていて、監督は右のボランチだったので、組む機会が多かった。だから、お互いのプレーに関して、言い合いや議論など、やり合うこともあった。昔から闘志を表に出すタイプで、だから今も闘志を前面に出せと言う。選手時代も監督になった今も、そこは変わらないですよね」

 現役時代の指揮官を知る山田は、ペトロヴィッチ監督の性格が今も昔も変わらないと話す。
「負けず嫌いですよね。1対1でもそうだし、とにかく勝ちにこだわる監督です。練習のミニゲームでも負けると罰走があったりする。僕がプロになってから、そういう監督は珍しい。罰といっても軽いものだけど、選手もやっぱり負けたくないし、常に勝負に勝つことを意識する。そういうところにも監督の熱意を感じます」

 情熱あるペトロヴィッチ監督によって、浦和のサッカーはどう変化、発展していくのか。
「ペトロヴィッチ監督はオランダでコーチや監督の経験を積んでいるので、オランダのスタイルであるように攻撃的なサッカーが特長です。早いプレス、早い仕掛けで、すべてが攻撃につながるようなサッカーを目指しています。1対1に負けるなと言われているように、ゴールに近い位置までボールを運んだときは、みんな積極的に仕掛けている。そういった意味では昨年より、迫力があると思う」

 ヴィッセル神戸との開幕戦に敗れはしたが、その意図通り、浦和は前線に人数を掛け、果敢な攻撃を見せていた。山田もチームが完成するにはそれなりに時間がかかると話すが、センターバックとして最後尾からチームを支えていきたいと言う。
「攻撃に人数を掛ける分、守備はきついですが、FWとの距離感を大事にしてチーム全体をコントロールできたらと思う。なるべく相手に早い攻撃を仕掛けさせないように、後ろでしっかり対応したいですね」

目標はACL出場、そして世界へ

山田は現実的な目標として、ACL出場権の獲得を視野に入れている。「もう一度」と願う舞台はその先にある 【(C)T.YAMAZOE】

 山田はセンターバックだけでなく、右サイドやトップ下など、ありとあらゆるポジションでプレーすることができる。本人は「優勝した時のイメージが残っているから」と、ペトロヴィッチ監督との個別ミーティングでは、攻撃的なポジションでの出場を直訴したというが、今シーズンも彼の主戦場はセンターバックになりそうだ。かつては、「自分さえよければ良かった」と言い切る山田だが、キャプテンを務めてからは、そうした心境にも変化が生まれたという。今では、「自分のためにという中に、チームのため」という思いがはっきりとある。
「選手としては試合に出ることが一番、意義がある。それに希望するポジションでなければ出たくない、なんて言っている年齢でもないですからね(笑)。ただ、センターバックはチームの失点に必ず関係してしまうポジションなので、責任の重さを常に感じています。はっきり言って大変なポジションです(笑)」

 経験を重ねることで、山田は変わった。その感情は表には出ないが、チーム最古参の選手として、最年長の選手として、浦和を良い方向に導きたいという強い思いがある。その情熱は、新監督に就任したペトロヴィッチにも負けない。ただ、酸いも甘いも知り尽くしているからこそ、簡単なことも言えない。そこが裏表のない彼らしい。

 センターバックとしてプレーし、「責任」というものを強く実感するようになったからこそ、彼は軽々しく「優勝」という二文字を口にできないのだ。
「もちろん、タイトルを狙いたいですが、現実的にはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場圏内に入ることを目標にしたい。個人的には試合に出ることがやはり大事なので、ポジション争いに競り勝って、常に出場することが目標ですね」

 その山田にはどうしてももう一度、経験したいことがある。それがACLで再び優勝することだ。
「ACLへの思いは出場したことのあるチーム、選手じゃなければ分からないかもしれない。あそこで優勝すると、クラブワールドカップで世界のチームと対戦できる。あれを一度経験すると、もう一度という思いがわいてきますよね。特に、僕はACL決勝に出場できなかったので、あの舞台に立ちたいという強い思いがある」

 浦和が再び栄光を勝ち得るために必要なもの、山田はそれを知っている。
「優勝したときは、試合をしていて先制されても、そこから追いついて逆転できるというか、負けない雰囲気があった。言葉ではうまく言い表せないんですけど、それが勝者のメンタリティーというものかもしれない。僕だけが感じていたのかもしれないし、みんなも感じていたのかもしれない。分からないけれど、優勝争いに加われば、そうした感覚が必ずチームに生まれてくると思います」

 勝者のメンタリティーを知る男。チームはペトロヴィッチ監督を迎え、「改革」を断行したが、「伝統」を知る山田がいれば、再び栄光をつかめるかもしれない。ホーム開幕戦の相手は山田も強豪と認めるガンバ大阪だ。「対戦していて強さを肌で感じる」というG大阪との対戦は、その第一歩としては申し分ないだろう。
「いつもスタジアムの雰囲気は最高です。ピッチに入るときには、思わず魅了されてしまうくらい。あとは結果を残すだけなんですよね、僕らが。そうなれば最高のホーム開幕戦になるかなと。G大阪は、組織がしっかりしていますが、怯むことなく攻撃的なサッカーを見せたいと思います」

<了>

(取材:原田大輔)
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