“テニス界のグローバル化”が作り出す新たな勢力図 男子2強時代終焉の予感と国際色豊かな女子

内田暁

中国人選手リ・ナの活躍が物語るグローバル化

女子シングルス準優勝のリ・ナ。アジア勢初のグランドスラム決勝進出は、テニス界の変化を感じさせる 【Getty Images】

 “テニスのグローバル化”ということで言うと、今大会の女子上位陣の顔ぶれは、より象徴的であった。ベスト8進出選手は、すべて異なる国籍の持ち主。そこにはデンマークやポーランドなどの新勢力も含まれるが、中でも特筆すべきは、女子アジア勢として初めて四大大会決勝まで勝ち進んだ、中国の李娜(リ・ナ)の存在だ。

 市場自由化、経済成長、海外進出……目覚めた“眠れる獅子”中国にまつわるそれら言葉の数々は、そのままテニス界における中国勢にも当てはまる。
 08年の北京五輪に向け、国政レベルで促進された選手強化。そこで発掘され鍛えられた原石たちは、五輪翌年の“選手の市場開放”により、一挙に磨かれることとなった。国からの支援を受けない代わりに自由を得た選手たちは、自らの足で立ち、ラケット一本で世界へと果敢に戦いを挑んでいく。

 リ・ナは、デビスカップの元中国代表選手である夫とともにツアーをまわり、今年はそこに、かつてピート・サンプラスらも手がけたドイツ人トレーナーをスタッフとして加えた。自分の判断で必要な人材を選び、出場する大会なども自分たちで決めていく。テニスは一度コートに入れば、基本的に、自分一人の力で戦い抜くしかない競技だ。そのような特性を考えたとき、中国の第一人者に与えられた自由とは、真のトップ選手になるために必要な、最後のピースだったのだろう。

 今週発表される女子の世界ランキングでは、トップ10選手の全員が、それぞれ異なる国籍となる。これは、テニスにコンピューターランキングシステムが導入されて以来、初の出来事。女子テニスは一時、ロシア勢の上位独占が話題になったが、その変革期を経て、今や完全に真の国際化の時代を迎えた。

 願わくは近い将来その中に、日本人選手も割って入ることを……。

<了>

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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