流通経済大柏、後半勝負の横綱相撲=<準々決勝 山梨学院大附(山梨) 1−2 流通経済大柏(千葉)>

平野貴也

「強い、強いよ、強い」

新旧王者対決は、3年ぶりの優勝を狙う流通経済大柏に軍配。しかも、その勝ち方が想像を超えていた 【たかすつとむ】

 試合開始直後には想像もできなかった、鮮烈な展開が待っていた。注目を浴びた新旧王者対決の後半戦、「強い、強いよ、強い」――ほかの言葉をすべて忘れてしまったかのように、周囲の記者がうなった。
 想像を超えた勝ち方を見せたのは、3年ぶりの頂点を狙う流通経済大柏。連覇を狙った山梨学院大附に加部未蘭という名の強烈な張り手を見舞われたが、がっぷり組んだ後は何もさせずに振り回した。

 流経大柏は序盤、明らかに後手を踏んでいた。3回戦の前橋育英戦に続き、この日もマンマーク作戦に打って出たが、本来は前線からのハイプレスが持ち味。キーマンを自由にさせないことで決定機を許さなかったが、攻撃力が自慢の山梨学院を相手に受け身に回り窮地に立たされた。

 前半21分という早い時間帯で交代のカードを切ったことが、事態の深刻さを物語っていた。最終ラインを束ねる主将の増田繁人は「早く代えてくれて助かった」と、その時の焦りを告白した。しかし、27分にはバイタルエリアに陣取った加部が、ボールを奪おうと足を伸ばした増田を置き去りに『瞬間移動』。警戒していた増田も「ビックリした」というスピードで右サイドへ持ち出し、豪快なシュートを突き刺した。

 ところが、流経大柏はすぐさま29分にラッキーな同点弾が決まり、息を吹き返した。セットプレーから相手ゴール前で混戦になると、クリアボールが至近距離からFW宮本拓弥の顔面を直撃し、勢いよくゴールへ飛び込んだ。電光掲示板に映し出されたリプレーに会場が失笑するという珍ゴールで追いつくと、31分には左足小指骨折で出場時間を限定しているエースMF吉田眞紀人を投入。35分にGKの手をはじいた吉田のシュートがゴールバーをたたくなど好機を作り出し、一気に試合の主導権を奪った。後半は一方的に攻め込み、後半33分に途中出場のFW田宮諒が胸トラップからボレーを鮮やかにたたき込んで勝負を決めた。

すでに頂点に立っているかのような貫録

後半勝負の流通経済大柏は、山梨学院大附に何もさせず、逆転に成功。完ぺきな戦いで試合をひっくり返した 【たかすつとむ】

 流経大柏の強さの根底には、「互角の試合になったら、勝てる」という自信が存在する。この数年、流経大柏の試合はさまざまな場面で見ているが、本田裕一郎監督はどの試合でも必ず「前半は0−0でいいよと言った」と話す。この日も例外ではなく、「後半勝負だということは、合言葉のように言う」とも付け加えた。苦しい試合になればなるほど、相手はより苦しいのだという暗示を選手にかけていると言ってもよい。

 もちろん、いつでもうまくいくわけではない。焦ってロングボールやファウルばかりの肉弾戦になることもある。しかし、普段からどこよりも多いと自負する練習で「困った時に頼れる」運動量と1対1の強さを中心に鍛え抜いている彼らは、試合運びでも0−0ならマイペースと言い切れるほどの後半勝負型を貫き、精神的な落ち着きを保っている。だから、最後まで逆転の気配を持ったまま戦える。山梨学院に対しても指揮官は「技術的には山梨が上、フィジカルではうちが上、メンタルでは? うちの方が上。だったら、うちが必ず勝つと言った」と最終局面を想定した心積もりをさせていた。

 今大会では、スーパーサブとして機能しているエース吉田が後半勝負に対する自信に拍車をかけている側面もある。増田はリードされた場面を「このままじゃヤバイと思った矢先の失点でガクッと来た。でも、まだ眞紀人も出ていないし、これからだと思った」と回想した。幸先良く先制し、勢いに乗ったはずの山梨学院が後半は1本もシュートを打てなかった。普段から後半勝負の心積もりができていなければ、流経大柏がここまで完ぺきにひっくり返すことは難しかったのではないか。名将がなぜ後半に強いという特徴を求めるのか分かったような気がした。

 最初から圧倒する勝ち方というのも際立った強さを感じるものだが、狙い通りではないにしても「受けて立つ」形で逆転した流経大柏には、すでに頂点に立っているかのような貫録が漂っていた。高体連最強の横綱相撲――そう、評したくなる一戦だった。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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