久御山スタイルこそ真の勝利=<準々決勝 久御山(京都) 1(4PK3)1 関西大学第一(大阪)>
「ポゼッションの久御山」対「カウンターの関大一」
久御山はPK戦で関西大学第一を下し、初のベスト4進出。魅惑のパスサッカーが光った 【鷹羽康博】
戦前の予想通り、キックオフから久御山がつなぐサッカーでボールを支配。対する関大一は、佐野友章監督からの「不用意に飛び込まずにパスを回させておけ」との指示に従い、フラットなDFと中盤の2ブロックを作って守備的なサッカーを実践した。序盤から「ポゼッションの久御山」と「カウンターの関大一」という両チームの狙いがはっきり出る展開となったが、「もっと(前から)取りに来ると想定していた」と振り返った松本悟監督の言葉が示す通り、久御山にとっては関大一の守備的なサッカーによって比較的楽なゲーム運びができた。
前半のボール支配率は恐らく70%近い数字で久御山に軍配が上がっていたはずで、最終ラインからのつなぎや、個々の技術によって関大一を圧倒していたような印象を受ける。24分には、コーナーキックから塚本健介がヘディングでゴールを決めた。とはいえ、前半の久御山のシュート数は3本。原因は、前線4選手の運動量の少なさと流動性のなさにあり、ボール回しがディフェンスラインとダブルボランチによる後方6選手でのボールキープとなり、「ボールを前に運ぶ」というポゼッション本来の目的が達成されていなかった。
後半は、得点を狙う関大一がリスクを冒して各ラインを押し上げ、前掛かりなサッカーを展開。久御山陣内に攻め込むことができるようになった。今大会でもポゼッションやパスサッカーを志向するチームは増えているが、前半の久御山のようにまだポゼッションのためのポゼッション、パス回しのためのパス回しにとどまるチームが多い。逆に、後半の関大一がロングボールを多用したサッカーで巻き返せた理由は、前線に入ったボールの後追いではあるが、MF梅鉢貴秀ら中盤の選手が長い距離を走ってポジションを上げ、チームとしてのラインアップを実現したからだ。そうなると選手間の距離が縮まり、ボールロスしたときに素早い切り替えさえすれば数的優位な状況ができ、高い位置でボールを奪い返せる。また、セカンドボールも拾えるようになってくる。
そうした流れで迎えた57分、関大一はFW井村一貴が同点弾をたたき込み、1−1と試合を振り出しに戻した。バルセロナの例に見るように、ポゼッションは攻守両面でコンパクトな状態を保つための最適な手段なのだが、決して万能ではない。選手権でポゼッションやパスサッカーをスタイルとして掲げるチームが多くなってきたからこそ、手段と目的が入れ違ったような現象を見逃すことなく、重要なのは「ボールと人を効率良く確実に前線に運ぶこと」だという確認作業を行っていかなくてはならない。
サッカースタイルを構築することの重要性
松本監督は自らの信念を貫き、独自のサッカーを展開する。その久御山スタイルが勝利した 【鷹羽康博】
ポゼッションについては辛口なことを言わせてもらったが、松本監督の信念が浸透した久御山スタイルには最大級の賛辞を贈りたい。選手権のような大会で、最終ラインから徹底的につないでいくことは、効率的かつ魅力的ではある。だが他方で、もしミスが出たときには失点に直結するため、大きなリスクが介在する。そのリスクについて松本監督は、「それで負けるなら本望ですね。弱気にやって取られるのと違って、果敢にいってばちっと取られれば、それは相手がうまいから切り替えようぜ、となります」と持論を語る。
育成年代での本当の勝利は、1つの試合や大会での勝ち負けではない。松本監督率いる公立高校の久御山が、全国の舞台でベスト4にまで入る強豪チームに育ち、ここ十数年で山崎雅人(広島)、森岡亮太(神戸)といったプロ選手を輩出している真の理由は、監督に「果敢に自分たちらしくいこうよ」と言えるだけのサッカーと信念があるからではないか。勝負にこだわることは絶対に必要なのだが、スコアや数字のみではない評価基準、つまりは絶対評価できるサッカースタイルを構築することも同じくらい重要だ。
試合に勝った負けたではなく、自らの信念やチームのスタイルを貫けるかどうか、自らのサッカーが通用するかどうかに勝負のポイントを置いている久御山と松本悟監督。わたしは、この試合での勝利や初のベスト4入りという快挙よりも、そこを、久御山スタイルの勝利を評価したいと思う。
<了>
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