山梨学院、ブレない指揮官が追及するサッカーの本質=<3回戦 山梨学院大附(山梨) 1−0 駒澤大高(東京B)>

鈴木智之

課題をすぐに修正できるのは日々の積み重ね

山梨学院大附は荒木のゴールで駒澤大高を振り切り、ベスト8進出。初戦で出た課題はすぐに修正されていた 【たかすつとむ】

 立ち上がり、攻勢に出たのは駒澤大高だった。持ち前のハードワークを武器に、選手全員がひたむきにボールを追いかける。大津、星稜と選手権の常連を破った勢いそのままに、赤い波が山梨学院大附をのみ込もうとする。しかし、山梨学院大附・吉永一明監督は冷静だった。「立ち上がり、相手が来るのは予想通り。こちらも負けずにパワーを持って入ろうと言っていた」。

 立ち上がりの猛攻をしのぐと、流れは徐々に山梨学院大附へと傾き始める。荒木克仁、宮本龍のダブルボランチを中心に2トップの白崎凌兵、加部未蘭が縦横無尽に動き、駒澤大高守備陣をかく乱。そして迎えた30分。ペナルティーエリア外、ゴール左の位置でFKを得る。キッカーは荒木。左足から放たれたボールは絶妙な弧を描き、ゴールに吸い込まれていった。

 指揮官も「彼の左足はスペシャル。あそこでFKを取れれば、8割、9割は枠に行く」と称賛するFKで山梨学院大附が先制ゴールを挙げた。結局、このゴールが決勝点となり、山梨学院大附がベスト8に進出。初出場ながら名門を撃破し、旋風を巻き起こした駒澤大高のチャレンジは終わりを告げた。

 山梨学院大附は初戦、国見に3−1で勝利しながらも、出来があまり良くなかった。中でも中盤の攻守の切り替え、ボールを奪った後の展開に課題を抱えていた。「ビデオを見せて修正し、選手の意見を聞きながらミーティングをしました」(吉永監督)。ポイントになっていたのが、ダブルボランチだった。この日は横にボールを動かし、両サイドハーフと連係を見せるとともに、相手の嫌がるスペースを突くことに成功していた。試合で出た課題を抽出し、適切な処置を施す。それをすぐに実行できるのは、選手、スタッフの日ごろの積み重ねがあってのことだろう。

「選手が成長しないと優勝も見えてこない」

吉永監督が口にする「サッカーの本質」。選手たちはこの言葉を理解し、表現すべくゲームを進めていく 【たかすつとむ】

 吉永監督と話をしていると、必ず出てくる言葉がある。それが「サッカーの本質」という言葉だ。システム、戦術、選手……どのような切り口にせよ、行き着くのは「サッカーの本質」に集約される。では、サッカーの本質とは何か。

「攻撃で言えばゴールを奪うこと、守備で言えばゴールを守ること。マイボールの時はゴールを奪うことを最優先したプレーが必要で、守備の時は相手からボールを奪うこと。もし奪えなくても、ゴールを守ることができる選手でなければ、上のカテゴリーに行った時に通用しないと思うんです」(吉永監督)

 サッカーはゴールを奪い、ゴールを入れさせなければ勝つことができるスポーツだ。そのために指導者は策を練り、トレーニングを組み立てる。だが、手法や情報が多様化するにつれ、時に手段と目的があいまいになることもある。パスをつなぎ、ボールを保持するのが目的なのか、それともゴールを奪うことが目的なのか――といったように。ましてや育成年代では、『選手育成』の言葉の前に、サッカーの本質が見えにくくなることもある。

 吉永監督の理念にはブレがない。「まずはサッカーの本質を理解した選手を育てること。もちろん、優勝を目指して戦うのは当然ですが、選手が成長しないと優勝も見えてこないと思うんです。優勝してもそこで終わりではないし、それを上の世代、次のカテゴリーにつなげていかなければ、僕らの仕事は意味がない」。

 吉永監督はアビスパ福岡でU−15、U−18、サガン鳥栖では育成部統括兼U−18監督を務めた。山梨学院大附に移った昨年は肩書こそコーチだが、グラウンドでは実質的な監督として練習や試合をオーガナイズした。2年目の今年は正真正銘の『監督』となり、チームを率いる。「ピッチの上で表現したいのは、サッカーの本質を大事にしながらゲームを進めていくこと」。このシンプルな一言に、吉永監督の哲学が詰まっている。

 5日、国立行きの切符を懸けて戦う相手は『高体連最強』の呼び声高い、流通経済大柏(千葉)に決まった。こちらもまた勝利への執着心を備え、実効的なプレーの多いチームだ。サッカーの本質である「ゴールを奪い、ゴールを守る」プレーの多い、魅力の詰まった試合が見られそうだ。

<了>
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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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