佐野日大が感じた敗戦の中での充実感=<2回戦 佐野日大(栃木) 1−2 作陽(岡山)>

平野貴也

完ぺきなスタートを切った佐野日大だったが

幸先よく先制点を奪った佐野日大だったが、作陽に逆転負けを喫した 【たかすつとむ】

「サッカーで勝って、勝負に負けた」

 佐野日大の小林功監督は、充実感と悔しさの入り混じった表情で話した。大会初戦となった2回戦、4大会前に準優勝を果たしている強豪の作陽を相手に接戦を演じたが、1−2で逆転負けを喫した。キックオフ直後から相手の長身FWに苦しむ場面はあったが、序盤は出足で完全に上回った。相手の攻撃陣を素早いプレスバックで挟み込み、足元でボールを扱うことを怖がらず、確実性を重視してパスをつないだ。互角以上の立ち上がりを見せた前半15分、敵陣中央でボールを持ったボランチの須賀智哉が左サイドをルックアップしながら右サイドへスルーパス。抜群のタイミングでディフェンスラインを抜け出したFW中山翼がフリーとなり、追いかけてくる相手DF2人の圧力に焦ることなくボールをコントロールすると、ファーサイドへ正確なシュートを転がして先制点を奪った。

「須賀さんがボールを持つ前に目が合った瞬間、絶対にパスが出ると思った。ファーストタッチでGKを見たらニアサイドに寄っていた。DFに寄られても、ファーサイドへ転がせば入ると自信を持って落ち着いて打った」と話した2年生ストライカーの物おじしないプレーは、高校サッカー界きっての名将とうたわれる作陽の野村雅之監督をして「伸び伸びとやっていて、やりづらかった」と言わしめた。

 佐野日大のスタートは、指揮官が「100%に近い」と評したほど充実していた。しかし、作陽が執拗(しつよう)に長身FWへのハイボールから二次攻撃をサイドへ展開すると、次第に押し込まれるようになった。前半28分、左サイドからのクロスにGKとDFが同時に食いつき、こぼれ球を決められて同点とされた。

 後半はやや押され気味となったが、決定機までは持ち込ませずに食らいついた。そして後半26分、小林監督は満を持して県大会では先発でも起用したスピード自慢のFW森恒貴を投入する。すると、直後に左サイドの攻撃からゴール前でパスを受けた森が的確なトラップで前を向き、絶好のシュートチャンスを作り出した。しかし、2人目のDFまで完ぺきにかわそうとした際、相手の足がボールにひっかかりチャンスを逃す。反対に、作陽は69分に選手交代でボランチの高瀬龍舞をトップ下に押し上げると、75分に右サイドから左へ大きく振って、センターへ折り返したボールを高瀬がきっちりとたたき込んで逆転ゴールを奪った。

「やり残したことがあった方が、面白さがあっていい」

主将の後藤(2)は、負けた悔しさの中にも、自分たちのサッカーをやれたことへの満足感を口にした 【たかすつとむ】

 結果だけを見れば、佐野日大の健闘は尻すぼみに終わったようにも見える。しかし、作陽の野村監督が「試合内容がひどかった。相手のプレスが速く、落ち着くところがなかった。明日、もう一度スタートできることを喜びたい。敗退していたら(持ち味が出せず)不完全燃焼になるところだった。勝ち上がるチャンスというより、もう1回試合をできることに感謝したい」と辛勝を認めたように、佐野日大の戦いぶりは、間違いなく勝利に近いところにあった。

 佐野日大の最終ラインを統率した主将の後藤尋明は「負けたけど、自分たちがやってきたサッカーは、全国大会でもしっかりとできた。自分たちの代は、(前回大会ベスト4を経験した選手が多く残る)矢板中央が強くて、全国には行けないと言われ続けてきたけど、その壁を破った。後輩たちは自分たちよりも上にいく力を持っているし、全国優勝を目指して頑張ってほしい」と涙をぬぐった。

 同点に追い付かれてから、相手を跳ね返し切れなかった。やり切ったようで、やり残したことがあるような敗戦だった。小林監督にしてみても先手を打って当たったはずのさい配が実らず、結果的には天下の名将に敗れる格好となった。

 選手権はトーナメントであり、無情の一発勝負だ。課題なき勝者も勝機なき敗者もほとんどいないが、勝敗は分かれる。敗れた後で何を言っても言い訳にすぎないと言い切り、課題や相手の強さを敗因と認めるだけならきっと潔かっただろう。

 しかし、試合後のあいさつを終えてベンチ横で泣き崩れた教え子たちをねぎらうようにロッカールームまで見守った敗軍の将は、こう言った。
「質の高さを追求してパスサッカーをやり通すことがわたしたちの目標だし、サッカーの醍醐味(だいごみ)をやり終えた満足感はある。(交代で)勝負は、かけたつもり。もちろん、結果を求めれば、きれいごとを言ったって結果が出なければダメだし、いいゲームをしていても勝負に負けては何にもならない。でも、やり残しておいた方が、また次につながるのかなという気もしている。ここで終わりじゃないし、子供もわたしも次のステージがある。ここでやり残したことがあった方が、面白さがあっていいんじゃないかと思う」

 現実を直視してなお強がった指揮官の言葉の中に、この大会を目指してきた彼らの幸福が表れていたように思う。

<了>
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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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