小島を支える前橋育英の“もう1人のエース”=<1回戦 前橋育英(群馬) 4−1 神村学園(鹿児島)>

鈴木潤

キーマンは小島のパートナー湯川

1得点1アシストの活躍で勝利に貢献した湯川(左)。前橋育英浮沈の鍵を握る存在だ 【岩本勝暁】

 前橋育英には、あしき伝統的とも言える決定力不足がある。例えば、昨年度の高校選手権2回戦・香川西戦(2−3で敗戦)に象徴されるように、ポゼッションでは圧倒的に支配して何度もチャンスをつかむのだが、好機を逸し続け、揚げ句の果てには相手のカウンターの前に沈む。俗に言う“負けパターン”が存在するのである。

 迎えた今大会、神村学園との1回戦。前橋育英は試合を優位に進めると、前半20分に湯川純平が絶妙のタイミングで前線に縦パスを通し、このパスを受け、前を向いた小牟田洋佑がゴール右下へシュートを流し込んだ。さらにその7分後、左サイドを抜け出した戸内英輔の折り返しを、湯川が巧みに右足元に落とし、最後は狙い澄ましたシュートをゴール右に決めた。そして、この2ゴールによって前橋育英は完全に試合の主導権を握った。

 言うまでもなく、前橋育英のエースは浦和レッズ入団内定のボランチ、小島秀仁である。だが、今大会における「キーマンは誰か?」と尋ねられたら、小島よりも、むしろ神村学園戦でも決定的な仕事をしたもう1人のボランチ、湯川の存在を挙げたい。

 1年時から出場機会に恵まれ、2年にして前橋育英のエースナンバー14を託され、U−17日本代表として2009年のU−17ワールドカップにも出場した小島とは異なり、湯川がレギュラーポジションをつかんだのは今年のチームが立ち上がってからだった。小島と湯川が組むダブルボランチは1年に満たない。従って、新チーム立ち上げ当初は互いのコンビネーションがかみ合わず、2人が攻撃のために高い位置を取るなど、中盤のバランスを欠いた時期もあった。それがすべての原因とは言わないが、前橋育英はインターハイ(高校総体)でまさかの群馬県予選敗退を喫した。

 だが、この敗戦はチームにとって、そして小島と湯川にとっても、1つの転機だった。山田耕介監督が「今年ほど公式戦が少なかった年もない」と苦笑いするように、前述のインターハイ予選敗退に加え、プリンスリーグ関東2部に属する前橋育英には、高円宮杯全日本ユースの出場権はない。そのため、例年ならば全国大会を戦うはずの時期は、代わりに複数の練習試合をこなす日々に充てられた。

小島にマークが集中すれば湯川が生きる

エース小島(右)と湯川が組むダブルボランチは今大会屈指の破壊力を備えている 【岩本勝暁】

「全国大会に出られなかったからこそ、練習試合の1つ1つを高い意識を持って戦えた」
 湯川はそう振り返る。攻撃的な部分が自分の持ち味だが、ただ前に出ていくのではなく、練習試合を積み重ねながら、チームの勝利のために意識を改革し、小島との役割を明確にした。

 その結果、湯川が前目、小島がバランサーという形が確立されただけでなく、「僕が上がったときは純平が意識して下がってくれる」(小島)と、2人が交互に稼働する頻度が劇的に増えたことによって、前橋育英の中盤には厚みと多彩さ、そして何よりバランスが加味された。選手権予選を前に「ようやく組織が出来上がってきた」と手応えをつかんだ山田監督からは、2年前の選手権ベスト4進出時のダブルボランチの名前を出して「秀仁と純平は、六平(光成/現中央大学)、(米田)賢生(現法政大学)のコンビに似ている」との評価を受けるまでの成長を遂げた。数カ月前にはコンビネーションに欠けたダブルボランチだが、今や、今大会でも屈指の破壊力を備えていると言っていいだろう。

 2人の力は神村学園戦でもいかんなく発揮された。前橋育英の司令塔を封じるため、神村学園は小島にボールが渡ると、複数人が即座につぶしにかかる。そんな時、湯川は小島の近くにフッと顔を出し、小島からボールを引き出す。あるいは、状況次第では小島がプレスを回避しながら展開すると流れを読み、バイタルエリアでサイドハーフやトップをサポートしながら厚みを加え、攻撃の核となった。

「小牟田に当てればチャンスになると思った」「2点目のゴールはイメージ通りでした」と振り返った2つのゴールシーンに絡んだプレーは、まさしく湯川の真骨頂だろう。2点を連取した前橋育英は“負けパターン”に陥ることなく後半に2点を加え、4−1で神村学園を下した。
「秀仁は相手に警戒されているし、研究されている。絶対につぶしにくる。でも、そうなれば僕が空くから、僕が攻撃のリズムを作る」
 試合後、湯川は力強く話した。

 前橋育英のエースは紛れもなく小島である。しかし湯川の言葉にもある通り、小島にマークが集中すればするほど湯川が生きる。それは1得点1アシストの大活躍によって初戦の勝利をもたらしたことで証明された。前橋育英浮沈の鍵は、“もう1人のエース”湯川が握っている。

<了>
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著者プロフィール

1972年生まれ、千葉県出身。会社員を経て02年にフリーランスへ転身。03年から柏レイソルの取材を始め、現在はクラブ公式の刊行物を執筆する傍ら、各サッカー媒体にも寄稿中。また、14年から自身の責任編集によるウェブマガジン『柏フットボールジャーナル』を立ち上げ、日々の取材で得た情報を発信している。

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