野洲、激しさを伴う“新・セクシーフットボール”=第89回高校サッカー選手権・注目校紹介 第5回

永田淳

“ハードワークするチーム”として大舞台に

“らしさ”と激しさが一体となった“新・セクシーフットボール”で野洲は再び旋風を巻き起こすか 【永田淳】

 第84回大会(2005−06年)において、“セクシーフットボール”で旋風を巻き起こし、全国制覇を成し遂げた滋賀県立野洲高校が、6年連続7回目となる高校選手権の舞台での飛躍を狙っている。
 優勝した翌年からも「クリエイティブなサッカーを目指す〜やっている人も見ている人も楽しいサッカーの実現〜」「世界を目指す〜Global Standardから逆算した一流のチーム・選手〜」「魅力ある選手を目指す〜長所を持った選手〜」という変わらぬ3つのテーマを柱に、毎年魅力的なチームを作り上げながら、思うように結果を残せないできた“セクシー集団”だが、タレントと組織がうまく組み合わさった今年のチームはこれまで以上に“戦えるチーム”になっており、上位進出を期待させる。

 今年度は、新人戦では準々決勝で八幡に3−4で敗れ、インターハイ(高校総体)予選でも準々決勝で草津東に1−2で敗れて、滋賀県でベスト8止まり。プリンスリーグ関西でも1部6位となり高円宮杯全日本ユースにも出場できず、この選手権まで全国への挑戦権を獲得できなかった。レギュラーの多くが1、2年生ということもあり、結果が出せるまでに少々、時間を要してしまった。

 そんな中でもチームは着々と力をつけ、この大舞台に戻ってきた。多くの人にとってイメージに合わないかもしれないが、“ハードワークするチーム”として。野洲といえば、高いテクニックを駆使したサッカーというイメージばかりが先行しがちで、周りからは「面白いけど、甘いんじゃないか」といった声も聞こえてくるが、この選手権で野洲が見せようとしているのは、そんなサッカーではない。技術があるというのは大前提であり、注目してもらいたいのは、それをいかに発揮するかを追求した連動性のあるサッカーだ。

 特徴的でありチームのベースとなるのが、前線からのハードなプレッシングだ。「フィジカル面の弱さを、それ以外の部分でどれだけ埋められるか。みんなでの守備、それがあっての攻撃」。FW美濃部寛貴主将がそう話すように、高さや強さ、速さといった点で図抜けた選手が多いわけではないチームで大事にされているのが、全体が一体となった素早い切り替えからのディフェンスである。山本佳司監督や、チームに出身選手が多いセゾンFCの監督でもある岩谷篤人コーチからも、「次、次」「すべるところはすべれ! 本気で奪いにいけ」という声が掛けられ、休みなくハードな動きを求められているこの部分が、チームの浮沈の鍵を握ることになる。

チームの約半数を占める1年生たち

今年度の野洲は選手権で初の全国大会に挑む。セクシー集団が大舞台に帰ってきた 【永田淳】

 12月22日に行われた久御山(京都)との練習試合では、序盤からチームとしての守備が機能しなかったことで立て続けに2点を失っており(主力が出場した2本目までは2−2の引き分けで終了)、そういった不安定なところは改善ポイントとして挙げられる。全国の舞台ではいかに立ち上がりから集中した戦いができるかが重要となるだろう。個々の技術という点では、単なる足技だけにとどまらず、判断のスピード、技術を生かすための動き出しの早さやポジショニングなど、あらゆることを含めた本当の意味での技術を持ち合わせた選手がそろうだけに、それを存分に見せられるサッカーを展開することを楽しみにしたい。

 今年のチームで注目すべきは、先発に名を連ねる1年生たちだ。小学5年生時にサンパウロ(ブラジル)に留学した経験があり、AFC U−16選手権にも出場したMF望月嶺臣をはじめ、U−16選手権メンバーにこそ入らなかったが、候補として名を連ねてきたDF水野隼人、MF高野登志基といった代表組、地味ながらも相手攻撃の芽を早々に摘む仕事で抜群の働きをするMF松田惠夢が中心として堂々たるプレーを見せる。今大会では望月が左MFに入り、高野と松田がダブルボランチを組むことが予想され、彼らがチームの舵(かじ)取り役となりそうだ。また、負傷した右サイドバック横江惇の状態次第では、平山晃大が右に回り、左サイドバックはカットインからシュートまでの形を持っている武田侑也が起用されることも考えられ、先発の約半数が1年生となる可能性もある。

 エースストライカーのFW加藤臣哉や右サイドのアタッカーMF布施俊樹も2年生であり、先発が予想される3年生は美濃部、GK松原篤志、センターバック竹内一希の3人のみとなりそうだ。それだけに以前は不安な部分もあったが、ここにきて水野が「この大会が最後だと思ってやっている」と話せば、美濃部主将も「プリンスリーグのころにはいろいろ悩んだけど、9月ごろから1、2年生の気持ちが伝わってくるようになった。それに対してこっちもカバーするようにとなってきた」と話すように、チームとしての一体感は大幅にアップしている印象だ。

 例年通り、山本監督による“実験”は選手権を間近に控えたタイミングでも続けられており、“最終形態”がどんなものになるかは最後までお楽しみとなるが、土台となる部分はしっかりと構築されている。「まだ成長段階。どこまでも進化を追求していくチーム」(美濃部)である野洲が、まずは31日の1回戦・松商学園戦でどんなサッカーを見せてくれるのか。会場を訪れる人々には、「見ている人を楽しませなきゃ野洲じゃない」(望月)という“らしさ”と、イメージを覆すような激しさが一体となった“新・セクシーフットボール”を堪能していただきたい。

<了>
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著者プロフィール

1980年生まれ。愛知県出身。小学3年からサッカーを始め、主にDFやMFとしてプレー。法政大学卒業後、商社勤務を経てフリーライターに。現在はG大阪・神戸を中心に少年〜トップまでカテゴリーを問わず取材している。Goal.comのDeputyEditor、少年クラブ指導者としても活動している。日本サッカー協会B級ライセンス保持。

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