小倉会長、シーズン移行は「Jと話し合いながら」=Jリーグ秋春制移行問題を考える:第4回

宇都宮徹壱

東アジアはシーズン移行に消極的

お隣韓国のKリーグは、シーズン移行には関心がないという 【写真:Yonhap/アフロ】

――小倉さんが会長に就任した際、「シーズン移行を考えるなら5年〜10年のスパンで考えないといけない」とおっしゃっていました。国内の寒冷地の問題もありますが、一方でアジアと歩調を合わせなければという思いもあっての発言だったと思います。実際、アジアの多くの国は春開幕と思われがちですが、中東は秋開催ですし、インドやインドネシアも日本とはシーズンが逆ですよね。そうなるとACLにしてもアジア予選にしても、有利・不利になる国がどうしても出てきます。これまでAFC(アジアサッカー連盟)で、そうした議論はなかったのでしょうか?

 それをやりたいとAFCでも言ったの。みんなで意識をもってアジアの強化のためにヨーロッパに合わせようという議論をね。でも、ご近所の仲間がまったく関心ないから。韓国はまったく興味なし。北朝鮮も同じ。中国もあまり変える気がない。韓国の場合、今の気候状況からすると変えられないといっているわけ。冬場の寒さが日本よりももっと厳しくて、11月過ぎたらサッカーがやれるところは済州島しかない。それと、日本みたいに試合数が多くないから(日程的に)自由度が保てるということで、なかなか同じような意見にはならないね。

――とはいえ、東アジアが本来オフである1月にアジアカップを行うというのは、やはり過酷に過ぎると思います。開催国のカタールは、2022年のW杯招致にも名乗りを挙げていますが、何だか無理な話ばかりを押し通しているような印象を受けますね(笑)

 シーズンを考えると、西(アジア)はそのタイミングでしかできないわけ。6月や7月なんてやったら死んでしまいますよ。カタールのW杯招致については、今度いい競技場作るみたいです。提案書を読むと、試合場も練習場も室温27度以下にすると彼らは言っているんですが、そんなのむちゃくちゃお金がかかるわけ。そりゃ、お金があればやれると思いますよ。でも現実問題として、日本はそこまでやれないわけだから。

――W杯に関連していえば、2018年大会招致を目指しているロシアが、シーズンをヨーロッパに合わせるというニュースがありましたね。これまで、シーズン移行に反対する意見の論拠のひとつになっていたのが「ヨーロッパでもロシアのように春に開幕する国がある」というのがありました。今後の議論に少なからぬ影響を与えそうですね

 ロシアの場合はね、今度のW杯招致でどう変わるかどうか、でしょうね。うまく(W杯開催が)決まればビッグチャンスなわけ。今、提案している競技場は、半分以上は作らないといけない。だから彼らは何とかしたい。もし18年が決まったら(環境整備の)加速度はつくと思いますよ。

協会とJリーグの意思疎通は改善していく

小倉会長は、Jリーグとの対話を重視しながら、シーズン制の問題を進めていく意向だ 【宇都宮徹壱】

――ところでJリーグ将来構想委員会では、今でもシーズン移行についての議論は継続されているのでしょうか? どうも犬飼会長時代と比べて、あまりそうした話題が聞こえてこないのですが

 僕が就任してからも、委員会で継続させていますよ。田中(道博)という常務理事に(トップを)やらせて、同じようにJリーグからもメンバーを出してもらって、この案件を継続しろと。シーズン問題に関しては、3月に始まって11月に終わる現状のJリーグ、そして直後に天皇杯がある中で、どこでどう(選手を)休ませるかと。たとえばヨーロッパのように6月、7月をオフにすればいいのか。今年の夏のように選手のパフォーマンスに悪影響を与えるのであれば、8月も休むとかね。ヨーロッパみたいに、9月に始まって5月に終わるというのにこだわる必要はないんじゃないか。もっと(前後に)ずらしたって構わないのではないか、とかね。

――単純に試合数を減らす、あるいはリーグのクラブ数を減らすというお考えはないのでしょうか?

 それは(考え方として)あり得るとは思うけれど、われわれはクラブの経営も考えないといけないから。今のヨーロッパのように放映権のマーケットが(日本には)ないわけでしょ。Jがプレミアリーグみたいに質が上がれば、みんなにお金を払ってもらって見てもらえるわけだけど、今のJだったらお金を払ってくれない。プレミア化という議論も頭の中にはあるけれど、プレミアを作っても下(のクラブ)が生活できなくなってしまうだろうし、16(チーム)でできるかというとそれも難しい。だから試行錯誤だろうなと思っている。いきつくところまで議論してほしいし、Jにもそうしてほしいと思っている。

――大東チェアマンはシーズン移行には積極的でないようですね

 それは鬼武(健二)チェアマンのときに、Jリーグとしての機関決定をして「すぐやらない」ということで、それにしたがっているだけだと思う。ただ、彼は鹿島の社長をやっていて(代表クラスの)選手がどういう状態だったか知っているし、Jリーグの質が高まらなければ存在価値はなくなってしまうからね。

――犬飼・鬼武時代は、この件についてJFAとJリーグの間で意思疎通に問題があったように感じられました

 だって考えが違うんだもの。でもね、この前の(会長)就任演説で、これからはJと仲良くなって協会を明るくするというのを言ったの(笑)。私の就任パーティーもJと一緒にやったから。今まではなかったですよ、協会会長の就任パーティーをJのチェアマンと一緒にやったというのは。歴史始まって以来だよ(笑)。

――そういうことって大事ですよね。協会会長とチェアマンが同じ時期に代わったのは、両者の関係性を新たに構築するという意味でも良かったかもしれません

 それに今後は強化委員会も、Jと協会が一緒にやることになっているからね。来年もけっこう日程は厳しいけど、原(博実=JFA技術委員長)たちもそういう認識をもっているし、そういう場にどんどん(提案を)投げてもらうしかない。協会とJリーグが意思疎通できなかったら、何も話が進まない。だから強化担当者が一緒になって「これはいい方法だ」とやっていかないとね。

アジアの日程は変わらないけれど

――とはいえ来年のカレンダーを見れば、原さんだけでなくJクラブ関係者にとっても危機感を抱くのは当然のことだと思います。本当に休めない選手が出てくるわけですから。来年の日程に関しては、会長は仕方がないとお考えでしょうか

 それは変えようがないからね。それでも、Jの各チームが(選手を)出してくれるかという問題は残る。アジア大会が終わったら、原は(各チームを)回って歩くと思う。チームとよく相談して、最終的なメンバーを選ぶことになるでしょうね。

――もちろん、アジアカップにしろ、7月に行われるコパ・アメリカにしろ、代表にはベストを尽くしてほしいです。しかしそうなると、Jとの兼ね合いという問題が出てくるのは間違いないですね。来年は五輪予選もありますし

 五輪に関しては、FIFAのカレンダーにはないからね。前回の五輪のときに、ドイツで訴訟問題になりましたね。今はU−21代表となると、みんなレギュラーですから、チームが降格すれすれだとか、優勝がかかっているとかになれば「簡単には出せない」ということになる。裁判になったら、勝てないわけですよ。そこでFIFAとしては「五輪はどうぞご自由に」という決断をした。たとえば、アジアとかアフリカの国は五輪に力を入れているけれど、欧州や南米は決してそうではない。特に欧州は、W杯の2年後にユーロ(欧州選手権)があるから、五輪はもっと若い選手に出てもらっても構わないというスタンス。だから、五輪が好きな国はU−23プラスオーバーエージ、そうでない国はU−21のチームを出せばいい。そういう感じになったんです。

――いずれにしても、日程問題は今後も頭を痛めるテーマになりそうです。1期2年の任期の中で、小倉会長はどの程度改善していこうとお考えですか

 僕の最大の任務は、2014年に代表がブラジルにいることだから、それにできるだけ役に立つような日程を、交渉しながら作っていくことですね。(W杯予選は)来年も再来年もあるわけだから、そういう中で選手が、ある程度疲れないで、いいコンディションで予選を戦わないといけない。それは僕だけじゃなくて、原も意識してくれているから、彼からどういう案が出るのか待っている状況ですよ。

――さまざまな制約があることは重々承知していますが、それでもプレーヤーズ・ファーストを心がけていただきたいところです。それはファンも望んでいることですから

 そう簡単にアジアの日程は変わらないと思いつつも、できるだけ原が希望するところに近づけていきたいなと思っています。もちろん、Jと話し合いながらね。あとは、たとえば親善試合をヨーロッパで組んで、海外組が疲れないようにするとか。逆に日本でやる試合は、興行面のことがあるけど、できるだけこちらの選手でやるとか、そういうことは現実論としてやれる話だと思う。そういうことを少しずつ、工夫しながらやるしかないと思っています。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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