小倉会長、シーズン移行は「Jと話し合いながら」=Jリーグ秋春制移行問題を考える:第4回

宇都宮徹壱

小倉会長は、シーズン移行を否定するのではなく、柔軟に対応する姿勢を示した 【宇都宮徹壱】

 シリーズ「Jリーグ秋春制移行問題を考える」第4回は、小倉純二JFA(日本サッカー協会)会長にインタビューさせていただいた。今さら説明するまでもなく、小倉会長の前任者は犬飼基昭氏であり、同氏は「秋春制移行問題」の端緒を作った人物である。前回、その犬飼前会長にインタビューを行ったわけだが、その際にはシーズン移行が実現した場合のメリットを力説した上で、すでに移行が実現した際のカレンダーを作成中であることも明かしてくれた(ちなみにインタビューが行われたのは5月20日)。

 前回の取材を踏まえて、今回の小倉会長へのインタビューで確認したかったことは3点ある。まず、犬飼時代の議論やカレンダー作りは、会長が変わってどのように継続されているのか(あるいは、いないのか)。そして、小倉会長自身はシーズン移行の必要性をどのくらい感じているのか。さらには、1期2年という限られた任期の中で、現状の過密日程をどのようにして解決していこうと考えているのか(すでに70歳の定年を超えている小倉会長は、必然的に2年後には協会から去る立場にある)。

 一方で小倉会長は、これまでFIFA(国際サッカー連盟)の理事を務めてきた国際派としてもつとに有名だ。そこでつちかわれた経験から、グローバルな視点に基づく日程問題、そして代表とリーグとのより良い関係について、独自の考えを語っていただきたいとも考えていた。シーズン移行問題はもはや、国内だけで完結する問題ではなくなって久しい。ワールドカップ(W杯)予選にACL(アジア・チャンピオンズリーグ)、そして選手のトランスファー、などなど。犬飼会長時代には、いささか感情論が先行していたシーズン移行問題ではあるが、小倉会長であればまた違った議論が可能となるのではないか。そんな期待を抱きながら、JFAハウス最上階の会長室に向かった次第である。なお、文中でワールドカップ(W杯)招致に立候補しているカタールとロシアの話題が出てくるが、インタビューが行われたのは開催地決定の1カ月ほど前であったことを申し添えておく。(取材日:11月5日インタビュアー:宇都宮徹壱)

寒冷地の施設に必要な予算は200億円?

――小倉会長が就任されたとき、いくつか挙げた目標の中に「日本代表を次のW杯に出場させる」こと、そして「Jリーグの充実」というものがあったかと思います。代表と国内リーグは、その国のサッカーの両輪であるわけですが、どうしてもスケジュールという面でバッティングする部分が出てしまう。シーズン移行の問題も、その延長上にあるかと思いますが、まずは会長の基本的なお考えからお聞かせください

 FIFAのインターナショナルマッチデーというのは、ヨーロッパのシーズンに合わせないと決められないんです。僕はFIFAの理事だから分かるけど、どんなにわれわれが提案しようと数で圧倒されてしまう。ヨーロッパを基準に世界のマッチカレンダーというものは決められていくからね。でも、これを変えることはできないという前提のままだと、日本代表に選ばれる選手が酷使されすぎて、いいパフォーマンスをするだけのコンディションが続かなくなるだろうと。それは大変つらいだろうなと思っているわけ。そこは何かしら改善すること(が必要)だと。犬飼が「変えたい」と言っていたシーズン制も、そういうことだったと思っている。

――その点については誰も異論はないと思います。問題はやはり冬期における寒冷地のクラブが抱える諸問題、とりわけ施設面についてどう対処するか、ということですよね

 もちろん、そういうことは早急にできる話ではなくて、今の設備のままでやれといってもできないわけ。現状を考えるなら、札幌や新潟や仙台や山形が、きちんと1月、2月、3月に練習ができて、試合をやって、しかも経営を満たすだけのお客さんが来てくれるか、ということがね。たとえばヨーロッパのスタジアム、特にドイツなんかは非常にそのあたりのことが立派で、ピッチの下にヒーティングシステムが入っているし、スタンドにも暖かい風が入ってくるとか。選手にとっても、お客さんにとっても、いい環境でやっている。しかしながらドイツだって1月は(気象条件で)休まなければならない。そういう中でも、彼らは工夫をしながらやれている。

――もちろん工夫は必要でしょう。ただし、ヨーロッパと日本とでは気象条件もサッカーの伝統も異なるわけで、Jリーグ将来構想委員会で検討されたときも「シーズン移行は時期尚早」という結論に達しました。この点についてはいかがでしょうか

 JFA会長の立場からすれば、冬でも春でも、北から南から1年中サッカーができる環境であれば、それがいいに決まっている。では、それが現実に近づくためにはどうすればいいか、ということで(議論を)やっているわけ。で、前回のときも(Jリーグ将来構想委員会で)どうすればやっていけるのか議論して、現実はなかなか難しいと(いう結論に達した)。いろんなレベルでのお金の計算をして、ある程度(競技施設を)満足したものにするためには200億円かかる。4つ(の寒冷地)をある程度格好がつくようにするには、最低でも20数億、上の方で200億近く。お客さんに来てもらって、選手も満足するためには、あっという間にそれくらいかかってしまうんです。

――200億ですか。とても現実的な数字ではないですね

 現実問題として、自治体の予算やクラブの経営状態を考えたら、とてもできないわけ。日本の設備を作っていくためには、W杯や五輪といった大きな大会を呼んで、その中で加えていくというのが現実論。もうひとつは国体を利用しながら、新しい施設を作るのに少しでも予算をつけてもらうとか、現実的にはそれしかない。自力でやるには、あまりにもチームの経営実態が厳しいというのがありますから。

寒冷地のファンとの話し合いはいとわない

――ところで以前、犬飼前会長にインタビューした際には、シーズン移行後のカレンダー案がすでにできていて、しかるべきタイミングで発表したいとおっしゃっていました。この件については、その後どうなったかご存じでしょうか

 できてないよ、そんなの(笑)。案としてならやったかもしれないけど、そんなもの知らないね。休みをどこで入れるかとか、そういう話じゃないの?

――そうですか。自信満々におっしゃっていたんですけど。犬飼さんはあの時、冬の寒さもさることながら、夏の試合では選手のパフォーマンスが落ちることを最も懸念されていました

 それは間違いない。でも僕は(夏も冬も)両方だな。今年みたいに非常に暑いと、先制点を入れたらあとは守ろうなんて話にもなるよ。それがいいとは思わないし、現状がいいとも思ってはいない。だから基本的には、日本で1年中サッカーができるような環境を作る努力をしていこうと。その中でも、代表になるような選手が、きちんと健康を維持しながらプレーできるような環境をどうやって作るのか。それが(代表の)強化につながるからね。

――この問題がクローズアップされた背景には、議論の進め方にも問題があったと思います。犬飼さんがかなり強引にやろうとして、結果として感情論が多くなってしまったように見えるのですが、いかがでしょうか

 感情論というか、やっぱり話し合いが足りなかったんじゃない? 僕は外の仕事が多かったので、あまり関われなかったけれど、対話の不足だと思う。(寒冷地に)行って話をするとかね。対象になっている4つのクラブが(シーズン移行のメリットを)理解してくれないと話にならないでしょ。あるいは、ドイツみたいな環境があるとか、イギリスみたいに「サッカーやラグビーは冬のスポーツ」という伝統があれば話は別だけど、まだ日本はそこまでいっていないもの。

――小倉会長ご自身は今後、寒冷地で実際に寒さを体感するとか、現地のサポーターと対話する機会を持つといったお考えはお持ちですか

 ありますよ。チャンスがあれば「どうすればいいのか」と皆さんと話し合うことはいとわないし、たぶん大東(和美=Jリーグチェアマン)だってぜんぜん嫌がらないんじゃないかな。それにこれからは、寒冷地からもどんどん代表選手が出てきますよ。仙台だってザッケローニが(関口訓充を代表に)選んだわけだし、今後は札幌や山形からも出てくるかも。そうなってくれば「あいつは大変だ」となって、みんなで何かを考えないといけなくなるだろうね。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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