阪神のドラ1・榎田は“冷静な野球少年”

室井昌也

日本代表でも活躍した左腕の魅力とは

阪神のドラフト1位指名を受けた榎田。冷静なマウンドさばきが魅力だ 【スポーツナビ】

 ことしのドラフトで阪神に1位指名されたのは左腕投手、榎田大樹(24歳=東京ガス)だった。榎田は11月に中国・広州で行われたアジア大会で2試合に登板、7回を無失点に抑え日本代表の銅メダル獲得に貢献した。即戦力として高い評価を受けているが、彼にはどんな魅力があるのだろうか。

 まず、榎田には野球少年をそのまま大きくしたような、素朴で親しみやすい印象を受ける。その一方で、大学、社会人を経験しているため、落ち着きがあり受け答えはとても丁寧だ。マウンドでも沈着冷静。力で勝負するのではなく、スライダー、カットボール、スクリュー、フォーク、カーブと多彩な変化球を持ち、制球力を武器にする投手だ。その持ち味はピンチを迎えたときに、より発揮される。

“ミスター社会人”に認められた投球術

 アジア大会A組1位をかけた大事な中国戦。先発した榎田は0対0で迎えた4回表、無死一、二塁のピンチを招く。しかし、5番・張洪波をピッチャーゴロ併殺打、6番・ハオ国臣を空振り三振に抑え、この回を乗り切った。
「先制点を取られたら流れが中国に行く場面。5番には併殺を狙ってカットボールでゴロを打たせる、思いどおりの投球ができました。中国の打者はそれまで内角のスライダーと、ひざ元の真っすぐについてきてなかったので、6番にはそこを中心に攻めました。決め球のサインも、打者心理を考えてキャッチャーに首を振りました。右打者の外角にスクリューを投げたかったんです。自信を持って得意球を投げた結果、空振り三振を取れました。あのときは気合いが入っていたので、普段はやらないガッツポーズまで出ちゃいました」

 榎田の冷静な判断力、そして得意球のスクリュー。それは9月の都市対抗野球2回戦、昨年の覇者・ホンダとの対戦でも生きた。この試合で榎田は、初回のピンチに4番・西郷泰之(38歳)をセンターフライに打ち取る。その後も打線の流れを西郷で断ち、チームを勝利に導いた。榎田は西郷を封じた4打席を「最高のピッチング」と振り返る。「社会人に入ってから精度が上がった、左打者の内角へのスクリューがうまく使えました」。
 榎田はその西郷と、アジア大会で同じユニフォームに袖を通す。しかも2人は選手村で同室。自然と対戦時の話になった。
「西郷さんに “左打者にあの内角球はセコい”って言われました(笑)。でも、そのあと真っすぐで勝負した攻め方などをほめられました。社会人を代表する選手にそう言われたことはとてもありがたいです」
 日本代表でも4番に座った、14歳年上の“ミスター社会人”の励まし。プロへ進む榎田には大きな自信となった。

タテジマの重圧を乗り越えられるのか!?

 榎田にとって今回のアジア大会は、初めての国際大会。そこで得たものとは――。
「変化球の切れ、緩急の使い方は通用するとわかりました。ただ、真っ直ぐは甘くなれば打たれてしまいます。スピードを簡単には上げられませんが、プロでやるには切れとコントロールをもっと良くするのが課題です」

「地元に帰ると行事が多いので、東京でじっくりトレーニングしています」と東京ガスの練習場で汗を流す榎田。今後の目標についてはこう話す。「キャンプでは1軍か2軍か分かりませんが、けがせずオープン戦を迎え、そこで結果を残して開幕を1軍でスタートしたいです」。ドラフト指名後、阪神の影響力の大きさに驚くことも多いが、榎田に浮かれた様子はない。
「選手村でも他競技の日本代表選手が、“阪神でも頑張れ”と激励してくれました。それに応えたいと思います」

 多くの新人が感じてきたタテジマの重圧。しかし榎田にはそれをさらりとかわす落ち着きがある。榎田の冷静な投球、そして少年のようなはじける笑顔が、甲子園で見られる日はそう遠くないだろう。

<了>
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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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